「幻滅期」・・・被災者の心の不調なぜ?罪悪感も 能登半島地震 #みんなのギモン
眠れない、やり場のないイライラが募る・・・能登半島地震から1か月半がたった今、被災した人々の中に、これまで表面化しなかった心の不調が現れているといいます。混乱の中で蓄積されていたストレスが噴き出す「幻滅期」です。どのようなケアが必要なのでしょうか。取材すると、そこには被災者が抱えてしまう罪悪感も。 (報道局 調査報道班 小野高弘) 【画像を見る】善意につけ込む偽情報 震災時に…なぜ投稿? SNSで「悲劇の現金化」が…ウソを見極める方法とは
■「生きている価値はない・・・涙がとまらず」
輪島市の避難所。被災した男性のそばに正座し身をかがめるように話を聞いているのは、臨床心理士の福島正樹さんです。国境なき医師団の一員としてこれまでパレスチナ、シエラレオネ、スーダンなどの現場で人々の心のケアに携わってきました。1月25日、東京からキャンピングカーで石川県に入り、以来輪島市で被災者一人ひとりに向き合っています。 朝、避難所の代表者に挨拶をすることから始めます。「あの方は最近1人でいることが多いんだよね」そんな代表者の一言も手がかりに声をかけていきます。 発災当初の生死に関わる局面から1か月半が経ち、避難所で毎日を送る人の間では少しずつ落ち着いた時間も流れるようになりました。でもその時間とは、行く場所がない、きょう何もやることがない、本を読む気にもなれない、そのような時間です。心のバランスを崩すのはそんな時だといいます。よく考えたら輪島では仕事がない・・・車も失い移動はどうすればいいのか・・・亡くなった家族の葬式もできていない・・・。自分は深刻な状況にあるという現実に初めて直面し、孤独を感じ、幻滅した気持ちに苦しめられるといいます。
各自治体がガイドラインで示していますが、災害時の心理的経過は、被災直後の「茫然自失期」、その後被災者同士が強い連帯感で結ばれる「ハネムーン期」があり、この時期を過ぎると、被災者の疲労や忍耐が限界に達してやり場のない怒りにかられたり、落ち込んで喪失感を抱いたりする「幻滅期」があり、その後、地域作りへの参加により自信が向上する「再建期」があるとされています。この経過の中で不調が長引き、PTSDやうつ病を抱える人も少なくありません。 避難所で福島さんはある男性に近づき声をかけました。「こんにちは。いかがですか」。話し始めて5分、突然、男性は涙が止まらなくなりました。そして震災前からの身の上や今後の不安を1時間半止めどなく話し続けたといいます。震災前に新しく建てたばかりの家は潰れ、話せる身寄りはいませんでした。食事が喉を通らず体重は減り、眠れない日が続き、イライラすることが多くなっていました。これだけでも心の不調のシグナルです。その上、男性は福島さんを前に「自分は生きている価値がない」とも口にしたといいます。 福島さんは男性を災害派遣精神医療チームDPATに診てもらうことにしました。投薬などの治療を経て、今、男性には少しずつ笑顔が戻っています。 福島さんは、被災地での心理臨床の繊細さをこう話します。 「こんにちはと声をかけても、いいよあっち行けよといった反応をする人もいます。それも心理的な反応で、強いストレスを抱えている場合があります。イライラしている人は気に留めておいて、2回目、3回目で少しずつ信頼関係を築きながら話を聞いていきます」 「最初は話をしたくない様子で会釈程度が続いても、ひとたび顔を覚えてもらって話し始めると、仕事がないことや将来への不安、自治体の対応への不満などが噴き出てくる人もいます」 また福島さんは、被災者の中での「同調圧力」も生じていると感じています。ある避難所の一角に7人ほどが身を寄せ合う場所。「過去は過去だ」として前向きになろうとする人がいると、食事の時間、「きょうはご馳走だ!」などと笑い声もあがります。その中で、家族を亡くし家をなくし1か月で傷が癒えるはずもない、決して前向きな気持ちにはなれない人もいます。でもそれを口にすると場の雰囲気に水を差すことになるのではと思い、何も言い出せず不安を心の奥底にしまってしまうというのです。それは強いストレスとして蓄積されるといいます。