政治家志望が一転、世界一周をきっかけに脚本家の道へ 「紛争国などでの経験を演劇で表現したかった」
平田オリザさん(劇作家・演出家)のラジオ番組(ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』)に、脚本家・舞台演出家の舘(だて)そらみさんが電話出演。多岐にわたる活動や、演劇を通じた社会とのかかわり方について語った。 【写真】世界一周旅行で紛争国などを巡る、脚本家・舞台演出家の舘(だて)そらみさん JICA(独立行政法人国際協力機構)でODA関連の仕事をしていた父の転勤により、幼少期はトルコとコスタリカで過ごしたという舘さん。外国人居留区は塀で囲われていることが多く、一歩塀の外にでると、同じような年代のストリートチルドレンがお金の無心に来た。みんな垣根なく優しくと言われるけれど、お金は渡してはいけないと言われる。 そんな格差や違和感を覚える環境で育ったことから、いつしか政治家を志したという。 トルコで暮らしていたころは、ちょうど湾岸戦争の真っただ中。1番仲の良い友人のお父さんが殺されたり、新聞の一面に遺体の写真が当たり前に掲載されたり、日本にいるときよりも人の死が身近に感じられた。 「率直に『人が殺しあうのがいやだ』と親戚に伝えたところ、『じゃあ、首相になればいいね。日本で初めての女性総理大臣誕生だね』と言われたものだから、小学校低学年ぐらいから口を開けば『日本初の女性総理になるんです』と答えていました(笑)」(舘さん) 中学生になるころには、自ら選挙事務所に出向き手伝いをしていた。大学も、歴代総理を輩出している学び舎を選んだ。そんな政治家への夢を一変させたのは、大学在学中に決行した世界一周旅行だった。 「世界一周中に出会った人々の優しさや、紛争国での経験により、単純に『戦争反対』とは言えなくなりました。帰国後は、うつ病も発症。もともと(平田)オリザさんの作品に触れていたので、それらの経験を演劇で表現したいと思うようになりました」(舘さん) 就職した会社は10か月で退職。以降、劇団「ガレキの太鼓」を立ち上げる傍ら、平田さんの主宰する劇団「青年団」で脚本家・演出家としての研鑽(けんさん)を積み、現在はテレビドラマや映画の脚本を数多く担当。女性の心理描写においては、他の追ずいを許さないと評判だ。 ほかにも、ロボットのキャラクターデザインや地域創生事業、学校での表現ワークショップなど、その活動は多岐にわたる。 近年は、演劇未経験者との取り組みも多い。2023年には実父と舞台を制作。いしかわ百万石文化祭に出品した「プレスリーになりたかった。今、娘と息子がいる」は観客の最多得票を集め、話題となった。 「父のこれまでの人生についてのヒアリングを重ねて、30分の芝居に仕上げました。父が75歳のときに『いしかわ百万石文化祭』の舞台で上演し、最多得票で本選に進めたのですが、父が『もう満足だ』と言って。運営の皆様には申し訳なかったのですが、私も『本当に素晴らしい時間だった』と父の気持ちを尊重。限界までの疲労と満足感で一気に身体が動かなくなり、本選は泣く泣く辞退しました」(舘さん) 父と制作した「プレスリーになりたかった。今、娘と息子がいる」は、「豊岡演劇祭2024」でも記録映像が上映され、好評を博した。 障がいがある人をおもな対象とした演劇ワークショップ「ひょっこりシアター」(兵庫県豊岡市・江原河畔劇場)は、2年目に突入。さまざまな特性を持つ人々が集まり、お互いを受け入れ合う自由な場所として機能しており、演出家として多くの学びがあるという。 今後の展望について、舘さんはこのように語った。 「今後は演劇活動を続けながら、現実社会とコラボレーションする作品づくりに興味があります。熊本の病院との協働や、地域創生プロジェクトなども進行中。社会に残るような作品を作っていきたいと考えています」(舘さん) ※ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』2024年12月26日放送回より
ラジオ関西