セクハラ「飲みの席だから」は許されない… 女性職員らの被害申告で“スピード解雇”、不服訴える男性次長を裁判所が一蹴
裁判所の判断
Xさんの敗訴である。地裁も高裁も「解雇はOK」と判断した。 ■ Xさんの反論 裁判でXさんは「セクハラはしていない。仮にセクハラにあたるとしても、発言内容は日常会話の延長や酒席でされたものであり、業務上の指導におけるひとつの表現方法であるし、身体的接触も、性的羞恥心を著しく害するものではない」と主張した。 しかし裁判所は、以下のとおり一蹴している。 ・混浴に入る度胸があるかを聞いたり、「イイ女になっている」などの発言は不必要な性的表現であり、指導や実績の評価をしているとは理解しがたい ・まして、自分の性的体験を露骨な性的表現を用いて語ったり、「生理か?」などの発言をしているが、これが一般的に不快であることは明らか ・指先で女性職員の頬に触れたり、肩や背中をポンとたたくことも、不快感・嫌悪感を抱かせるに足りる行為であり、実際に女性職員は強い嫌悪感を抱いていたのであるから、性的羞恥心を著しく害する そして裁判所は、上記のとおりセクハラ行為が著しく不適切であることに加え、▼次長として職場環境を改善する立場にあったのにこのようなセクハラをしている▼Xさんが「セクハラの意図はなかった」などの弁明を繰り返しており本人にセクハラの自覚がないため改善される可能性が低かった▼職場が小規模で事務職員がすべて女性のため配置転換が難しかった、などの理由から「解雇OK」と判断した。
最後に
ほんの10年くらい前までは相当ひどいセクハラでも解雇はダメとされていた。ひとつ紹介すると、平成21年(2009)の事件では、社内旅行の宴会で上司が女性部下に「私のひざに座ってビールを注いでくれないか」「胸が大きいね、何カップかな」「犯すぞ」などと発言して解雇されたが、裁判所は「解雇は無効」と判断したのである。(Y社(セクハラ・懲戒解雇)事件:東京地裁 H21.4.21) しかし、現在はセクハラに厳しい視線が向けられているので、上記発言をすれば解雇OKと判断される可能性があるだろう。「肩や背中をポンッ」なども避けたほうがいい。男性上司からすれば叱咤(しった)激励のつもりだろうが、「きゃっ! ポンッされてうれしい!」などと思う女性は、い・な・い(合掌) ■ 林 孝匡(はやし たかまさ) 【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。
林 孝匡