"人工血液"でどんな治療が可能になるのか? 常温で2年保存可能、血液型不問の夢の製剤!
■治験はどのように行なわれる? ――緊急輸血やへき地、離島の医療を変えるほかに、この人工血液の使い方に可能性はあるのでしょうか。 笠原「実際に人に使ったことがないので、あくまでも考えられる可能性ですが、この製剤はヘモグロビンが赤血球よりも小さな膜に入っているので、赤血球が届かない狭い所にも入って酸素を運べると考えられます。 例えば虚血性疾患(脳梗塞や狭心症など)を起こした際、この先は普通の赤血球では届かない所でもこの製剤を輸血すれば届くはずなので、急性期の医療として使えると考えられます。 それと、こちらもまだ可能性なんですが、輸血がなかなかしづらい方っていらっしゃるんです。例えば血液に不規則な抗体を持っていたり、特殊な血液型だったりなど。そういう方に輸血ができるようになると考えられます」 酒井「あとは臓器移植の場面です。ドナーから取り出した臓器をいち早く移植者に届けないといけないんですが、今は冷やして運んでいるだけなので、どうしても保存に限界があるんです。もし、取り出した臓器の血管の中にこの製剤を循環させた状態にしておくと保存期間が延びるはずです。臓器に酸素を与えておけば、組織は死にませんので」 ――今年から治験を開始されるようですが、どのような内容をどのような段階で行なう予定なのでしょうか? 笠原「まずは動物実験で問題ないとなったら、次は人体に入れます。最初に人体に用いることを"ファーストインヒューマン"と呼んでいます。最初なので人数も少なく、今回は健康体の4人。量も100mlと少量で、入れるスピードも時間をかけてゆっくり入れていきます。これが治験のフェイズ1のAに相当します。 この段階はすでに終えていまして、特に副作用などの問題は起こっていません。次が治験のフェイズ1のBになるんですが、これも健康な人が対象で16人。量も400mlと多くなり、入れるスピードも速くなります。 このフェイズ1の段階をクリアすると、次はフェイズ2に進みます。フェイズ2は病気の人が対象。人数は外部機関が決定しますが、数十人の規模になると思います。これをクリアすると、もっと規模を大きくしたフェイズ3の段階に入ります。ここをクリアして、初めて厚生労働省に申請となります」 ――この先何か障壁は考えられるのでしょうか? 笠原「やはり金銭面です。フェイズ3で数百人分の製剤を準備できるかどうか。数百人分となると相当な費用がかかります。せっかく基礎研究、そしてフェイズ1、2とクリアしたのに、フェイズ3でつまずいたらこの製剤が世の中に出ないことになります。 医療を変える可能性を秘めたものですから、金銭的な問題が理由で世の中に出ないというのはあってはならないこと。なので、興味を持っていただけるような企業や団体に声をかけさせていただいているところです。 今のところ、2030年の実用化を目指していますが、より多くの人がこの製剤に興味を持って、より早い実用化に向けて応援していただけたらと思っています」 取材・構成/ボールルーム イラスト/福田嗣朗 写真/共同通信社 PIXTA