ファンサービスで中日松坂を襲った最悪悲劇を繰り返さないための手段はあるのか?
里崎氏も、現役時代には新幹線のホームでファンにもみくちゃにされたり、キャンプ中に柵で仕切られているにもかかわらずファンが殺到するなど、危険を感じる場面があったという。 「もし全面サイン禁止を打ち出しても、悲しむのは本当のファンだけで、今回のような事件を起こした人物はなんとも思わないだろう。今はサインや握手を断れば、すぐにSNSで、選手の対応について“塩対応”“天狗になっている”などと投稿される。でもプロだからサインして当たり前だろう、と思っているファンも、サインなんかしたくない、と思っている選手もいない。選手にも、当然、疲れや気分が乗らないときもあるだろうし、1分1秒単位で動くキャンプでは、時間も限られているし、特に新人選手などには余裕がない」 「1年に一度しか選手と接触するチャンスがないから何が何でもサインが欲しい、というファンもいるだろうが、選手はプロである前に一人の人間であることも理解してあげて欲しい。互いにありがとうと思いやることが大事だと思う。こういう事件をなくすには、ファンの方にモラルを持って行動してもらうしかない。球団は、そういうルールも含めたファンの良心へ呼びかけを行うしかないだろう。だが、本当のファンは理解してくれるだろうが、サインの転売や今回のような事件を起こす悪質なファンは、そんな呼びかけを屁とも思わない。そういう人達への対応こそが重要なのだが、見分けはできないのでなおさら難しい」 個々の球団レベルでの対応に限界があるのならば、NPBが、なんらかのガイドラインを定めて、悪質なファンから選手を守るルール、対応策を講じることも重要かもしれない。各球団の担当者は、他球団キャンプを視察して情報収集などをしているが、全部の球団のパターンを知るにも限界がある。よりよいシステムを取り入れるためにファンサービスに関する情報を共有し、意見交換ができるような場所や機会も必要だろう。NPBがリーダーシップを取るべきである。 中日が、今後、どんな対応策を決めるのかわからないが、今キャンプでのサイン、接触の禁止が決定されても誰も中日を責めることはできない。一人の心ない人物の愚挙が、本当のファンや、選手を悲しませることになった。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)