下重暁子「ドラマの主役が紫式部だろうと私は清少納言派。彼女ほど男達に鋭い刃をつきつけた女性が当時ほかにいただろうか」
2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』で注目を集める平安時代。主人公の紫式部のライバルであり、同時代に才能を発揮した作家、清少納言はどんな女性だったのでしょうか。「私は紫式部より清少納言のほうが断然好き」と公言してはばからない作家、下重暁子氏が、「枕草子」の魅力をわかりやすく解説します。縮こまらず、何事も面白がりながら、しかし一人の個として意見を持つ。清少納言の人間的魅力とその生き方は、現代の私たちに多くのことを教えてくれます。 【書影】下重暁子が迫る清少納言の才能と魅力『ひとりになったら、ひとりにふさわしく 私の清少納言考』 * * * * * * * ◆人生で三度目の、原文で読む「枕草子」 昨年の夏は「枕草子」を原文で読んでいた。大学時代にパラパラめくっていたし、その後小冊子で「枕草子の季節感」の連載のためにもう一度、そして今度が三度目である。 甘く見ていた。全文になると大部になることも、訳注があれば、なんとか理解できるはずとたかをくくっていた。 そして今回その気になって正面からぶつかってみると、実に奥深く、現代語と違って解釈が難しい。何度も投げ出したくなった。しかし、自分で言い出したことである。 NHKの大河ドラマが今回紫式部を取り上げた。「光る君へ」である。 その話題の中で「私は清少納言の方が好きなんだけど……」と言ってしまった手前、「それなら私の清少納言考を書いてみたら」と言われて逃げ出すわけにはいかなくなった。 そこで一年ほど格闘することになった。平安時代の一人の秀れた女性作家と付き合うことで、なぜ清少納言に惹かれたかがわかった。
◆ノンフィクションだから感じられる、当時の貴族社会 その理由は、人間性である。「枕草子」からは、恥ずかしがり屋だが正直な清少納言の、生身の人間性が感じられる。 「源氏物語」のようなフィクションではなく、日々の暮らしで見つけた事ども、一条天皇の皇后定子(ていし)の元に宮仕えに出ることで見えてきた貴族社会の権力闘争をはじめとする虚実の数々。 初めは憧れであったものが、現実を知ることで、清少納言の物を見る目はいっそう磨かれ冴えわたる。遠く千年を経ても、今も同じである。 人間とは何か、生きるとはどういうことか。現代に重ねても、違和感がない。 そして最後に残るものは、きらびやかな館でも、色鮮かな十二単でもない。ひとりになって見えてくるものは、人への想いである。 清少納言にとっては、定子というかけがえのない恋人。 男でも女でもいい。思い出を反芻して生きる。ひとりになったら、ひとりにふさわしく……。
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