〈急速にこじれる中国と欧州〉EUの外交姿勢の変化と駆け引き、習近平の欧州歴訪から見えたもの
EUのデリスキング政策とドイツの変化
関係がさらに悪化したのは23年後半である。13年1040億ユーロであったEUの対中貿易赤字は23年3970億ユーロに急膨張し、経済面の不均衡は覆いがたいものとなっていた。この素地や先述の安全保障面の懸念、さらにEVや半導体関連の摩擦、中国による技術情報剽窃、中国市場の閉鎖性も相まって、対中経済安全保障政策が硬化する。 欧州委員会は23年10月、中国製EVへの政府補助金の調査を開始し、11月には素材関連の対中依存を減らす「重要原材料法案」導入で合意した。これらは中国との経済関係を継続しつつ、そこに潜むリスクを低減させる、いわゆるデリスキング政策の一環である。 本来、EUの対中関与は経済利益に基づくが、これが根本的な安全保障基盤に悪影響をおよぼし、その便益の分岐点を下回るとすれば、デリスキングを推進するのは当然である。これは十数年前に米中間で開始され、現在も悪化しつづけている構造と同様である。 無論、地政的位置や域内多様性から、EUの対中姿勢は米国と完全に一致するものではないが、変化の発生は避けがたい。それは同時に、国外では米国との競合・対峙に直面し、国内では経済不況、外資の直接投資減、過剰生産問題を抱える中国にも、好ましくない事態である。だが、対立根源がEU側にとっての安全保障上の構造的問題である限り、打開には限界がある。 こうした予兆は、4月中旬のドイツのショルツ首相訪中時の「塩対応」にも見える。周知のようにドイツは長年の積極的対中投資から、日本同様、経済界中心に親中派が多い。しかし、ショルツ政権は昨年7月、予想外の強硬な「対中戦略」発表し、中国の反発を招いた。
北京で習近平は「長期的・戦略的観点から関係を拡大すべき」と述べたが、ドイツが提起した過剰生産能力や不公正競争の問題や、ウクライナ和平への働きかけには、まったく無反応であった。このためかは定かではないが、ドイツ当局は4月後半、中国のスパイ容疑で4人を検挙した。いずれにしても、習近平が訪仏時に見せた友好ムードとは大きな隔たりがある。