〈急速にこじれる中国と欧州〉EUの外交姿勢の変化と駆け引き、習近平の欧州歴訪から見えたもの
EU・中国間の関係悪化
長年にわたって親密な関係を構築してきたEUと中国の関係は、近年急速にこじれつつある。その背景には、第一に中国外交の姿勢変化がある。 中国は表面的な国力隆盛を背景に、「中国の夢」「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平の意向に沿うべく、2010年代後半からは外交面でも自己主張を前面に押し出していった。この、いわゆる「戦狼外交」と称される攻撃的な外交姿勢は欧州でも発揮され、特に人権問題で敏感な意識を持つEU加盟国の一部と摩擦が起きた。この反動もあり、19年頃にはEU側が中国を「システミック・ライバル」と表現したように、対立の芽が生じはじめた。
とはいえEUにとって、依然として中国との経済的利益は最優先事項であり、本格的な対立に至るわけではなかった。だが、20年の新型コロナウィルス流行をめぐる中国の開き直りとも言える外交姿勢によって、欧州での対中イメージは急速に悪化した。 その上、21年には新疆ウイグルの人権状況をめぐるEU側の対中制裁に端を発した制裁応酬や、リトアニアの台湾との接近に対する中国側の露骨な経済的威圧という懸念事項が、相次いで発生した。こうした影響から「EU・中国包括的投資協定」の欧州委員会での承認プロセスが凍結されるなど、双方の関係がこじれていった。 加えて、22年からはじまったウクライナ戦争によって、EUの対中不信は決定的になった。EUにとってロシアの侵略行動は、直接的な安全保障リスクとなったが、そのロシアの背後で、中国は暗黙裡だが強固に連携・支援する姿勢を取りつづけている。 このため、それまで対中関係では大きな利害をもたなかったEU加盟国、特に北欧・中欧諸国間では、中国という存在が、権威主義的・専制主義的勢力の一致行動者であるというリスクが再認識された。これに伴いEU側では、中国への経済依存度の高さを含めて警戒感が急速に高まり、これを見直す動きが顕著となっていった。