兵庫のかじ取り役は誰に 17日間の舌戦スタート 知事選告示
兵庫県政初となる現職知事の失職に伴う出直し知事選が31日告示された。文書告発問題で県政の停滞が続く中、兵庫のかじ取り役を誰に託すのか。17日間の舌戦が始まった。 「半年間で生まれた断裂、混乱の解消に全力を尽くしたい」。日本維新の会で参院議員を2期務めた清水貴之氏は離党して立候補。神戸市中央区の事務所前で第一声を放った。 「党派を超え、兵庫を前に進めたい」との思いで維新からは推薦、支持を受けず、「無党派」での選挙戦に臨む。イメージカラーは維新の「緑」ではなく、「青」を採用。元アナウンサーの知名度を生かし、文字通り維新の色を消して幅広い支持を狙う。若者・子育て支援や観光振興を軸に「幸福実感度日本一」を目指す。 「知事の顔色ではなく、県民を向いて仕事をする職員を評価する制度を」。稲村和美氏は同区の県庁前で訴えた。阪神大震災のボランティアをきっかけに政治の世界に飛び込み、3期12年務めた尼崎市長時代には財政再建や暴力団事務所の撤去などに力を入れた。 政党からの推薦、支持を求めず、出馬表明後は県内の首長や団体などを行脚。知事や議員も対象としたハラスメント条例の制定や、市町が使い道を決められる子育て支援交付金の設置を訴える。一部の自民党議員や立憲民主党議員らが支援する。 県議会から不信任決議を受け、再出馬の道を選んだ斎藤元彦氏は失職当日の9月30日から街頭活動を開始し、その姿をX(ツイッター)に投稿した。YouTube(ユーチューブ)チャンネルも開設し、SNS(ネット交流サービス)を駆使した活動を続けている。 「今回は1人からスタートした」。斎藤氏は告示後、神戸市中央区の広場でそう切り出し、県庁舎建て替えの凍結や県職員OBの天下り見直しなど「成果」を挙げた。文書告発問題については「大変申し訳ない。反省すべきは反省し、改めたい」と述べた。 「外部公益通報制度を作り、県政を正常化します」。大沢芳清氏は同区のJR元町駅前で第一声を上げた。 大沢氏は、斎藤氏の不信任決議が可決される前の9月上旬、共産党などでつくる市民団体「憲法が輝く兵庫県政をつくる会」が擁立した。現役の病院院長として、新型コロナウイルス禍をチームプレーで乗り越えた経験から、職員との信頼関係の重要性を強調。医療・介護施策の充実や県独自の給付型奨学金制度の設立なども挙げ「県民に寄り添い、暮らしと安心を支える県政に転換したい」と訴えた。 知事選を巡り、各党の対応は分かれた。県議会最大会派の自民党県議団は告示4日前の10月27日、独自候補の擁立を断念し、自主投票に追い込まれた。一部の議員は稲村氏を支援するが、斎藤氏を推す声もあり一枚岩ではない。 維新は「本人の意向に沿った」(片山大介・兵庫維新の会代表)として清水氏の推薦を見送ったが、所属議員らは自主的に支援に回るという。 公明党は自主投票を決め、立憲民主党系会派は稲村氏を支援する。共産党は大沢氏を推薦する。 福本繁幸氏、立花孝志氏、木島洋嗣氏もそれぞれ第一声の後、街頭などで支持を訴えた。【山田麻未、大野航太郎、木山友里亜】 ◇なぜ知事選に? 文書告発問題の経緯 文書告発問題は、元県西播磨県民局長の男性が3月、斎藤元彦前知事のパワーハラスメントや贈答品受領など七つの疑惑を一部の報道機関や県議に匿名で配布したことで表面化した。 元局長(7月に死亡)は県の公益通報窓口にも通報したが、県は通報者への不利益な扱いを禁じた公益通報者保護法の対象外と判断。内部調査で「文書は誹謗(ひぼう)中傷にあたる」と認定し、元局長を停職3カ月の懲戒処分とした。 これに対し、調査の中立性を問う声が上がり、県議会は6月、51年ぶりに調査特別委員会(百条委)を設置した。斎藤氏は8月の百条委で元局長への処分について「今でも適切だと思っている」と証言。9月には県政の混乱について陳謝する一方、「(自身の)道義的責任が何かわからない」と発言し、波紋を呼んだ。 斎藤氏は告発内容を一貫して否定したが、県議会は9月19日、斎藤氏の不信任決議を全会一致で可決。斎藤氏は同26日、自動失職して出直し知事選に立候補すると表明した。 百条委は継続中で、斎藤氏は知事選後も出頭を求められる可能性が高い。【中尾卓英】