なぜ大病院に患者が集中? ―地域医療構想に沿った患者の受診方法とは
◇(1)大病院志向
病気になった際に、多くの人は「せっかくなら大きな病院で診てもらいたい」と考えるかもしれません。そして実際、フリーアクセスによって自分の判断で医療機関を選ぶことができるため、結果として高度専門医療が必要でない患者さんでも最初からいわゆる「大病院」へ行くことが可能になっています。 紹介状なくそのような病院を受診する場合、当院では、初診時には別途「選定療養費」が5000円(歯科)または7000円(そのほかの診療科)(病院によって異なる)必要になりますが、それでも最初から大きな病院を受診したい、という方は少なくありません。 しかし、そのような患者さんを多数受け入れると、高度急性期や急性期の医療を行うためのスタッフと設備を本来の目的のために使うことができなくなってしまいます。
◇(2)専門医志向
患者さんは、高齢になればなるほど複数の臓器にわたる問題を有する傾向があります。複数の問題といっても、高度急性期病院で診察を受ける必要がある問題もありますが、地域のクリニックなどで総合的に診てもらうほうがよい問題も多いのです。 さきほどの大病院志向の話とも重複しますが、多くの患者さんが専門科の受診を求める傾向があります。その結果、大病院の数多くの専門診療科に通院し、結果的に多くの処方を受けて、薬が増えてしまっているような患者さんも少なくありません。 また、大病院の複数の診療科に通院を繰り返す方もおられます。現在の医療制度では、このような患者さんは3000~5000円程度(病院によって異なる)の「再診時選定療養費」を支払う必要があります。 しかし、実際の徴収にはハードルが高いことや、仮に徴収したとしても、地元のクリニックに別途時間と交通費をかけて行って診察代を払うくらいなら再診時選定療養費を払う、という患者さんが少なくないと思われます。これも、急性期病院の業務逼迫につながっているといえるでしょう。
◇(3)地域医療構想はまだ患者さんに浸透していない
国では(1)や(2)のような不効率を避けるために地域医療構想を策定し、まずは地域のかかりつけ医を受診し、また高度急性期や急性期の病院での治療後は回復期を担当する医療機関や自宅に移っていただくという役割分担を進めているのだと思います。 地域医療構想の周知は各都道府県が行うこととなっており、行政側はかなり努力をしていると思います。当センターでも院内の至るところに周知用のポスターを貼っているのですが、なかなか浸透していない状況です。 特に退院や転院については、「なぜここで引き続き診てくれないんだ」と頑なにおっしゃる方もいらっしゃいます。 そのような場合、当院では医師が患者さんにかかりつけ医を持つことの重要性を説明して納得いただくのですが、時間をかけて丁寧に説明し、なんとかご理解いただいている状況です。制度を知っていただいていればこのような時間は不要になるはずであり、やはりまだまだ周知が足りない状況だと思っています。 これらの状況を解消するには、とにかく地域医療構想についてより多くの国民に知っていただくと共に、かかりつけ医機能のさらなる普及啓発など、さらに強力な誘導が必要かもしれません。多くの方が病気の状況に合わせて受診する病院を適切に選べるようになれば、より効率的な医療の提供につながって皆が今よりもハッピーになれるはずです。 また、地域においては、「消化器内科」「アレルギー内科」「外科」「皮膚科」のような専門的なクリニックに加えて、総合的に多くの問題をフォローできる「総合診療機能」を有するクリニックがもっと増える必要があるかもしれません。
◇まずはかかりつけ医に相談を
患者の皆さまにおかれましては、まずはかかりつけ医にご相談いただきたいと思います。かかりつけ医は、病気や症状、治療法などについて的確な診断やアドバイスをくれたり、必要に応じて適切な医療機関を紹介してくれたりする、大変頼もしい存在です。 高度急性期医療を担う当センターのような病院は、かかりつけ医との連携と役割分担により、地域に必要な医療を提供しています。患者の皆さまには、ぜひこのシステムをご理解いただきたいと思います。
メディカルノート