人権担当相の設置を “首相肝煎り”補佐官ポストは昨年消滅 中谷元・元首相補佐官に聞く【政界Web】
◆中国の人権状況に懸念 ―海外の人権状況は。 ▽スイス・ジュネーブで22年2月、バチェレ国連人権高等弁務官、グランディ国連難民高等弁務官、マウラー赤十字国際委員会(ICRC)委員長らと会談し、新疆ウイグル自治区の人権問題について意見交換をした。 バチェレ氏に対しては新疆の視察に際し、実情をしっかりと見て国連に報告書を出すよう強く要望をした。バチェレ氏は同年8月、国連に中国の新疆における人権侵害を認める非常に立派な報告書を公表した。 しかし、国連人権理事会では中国側の根回しによって、特にグローバルサウスの国々が新疆での人権侵害を討議に取り上げる決議案に反対し、結果として報告書に関する議論ができなかった。 これは欧米を含め日本にとっても非常に遺憾なことで、力や圧力で国際社会の人権擁護に関する意見を封殺したり、原理原則を変えたりすることは許してはならないと感じた。 ◆人権担当相の必要性 ―補佐官を外れて感じることは。 ▽政府の人権政策を推進するため、NGOや企業関係者から人権担当補佐官や会議体の活動を残すべきだという意見をもらうことも多い。 人権問題は複数省庁が所管し、省庁の垣根を越えた決断は難しい。そのため、各省にまたがる人権政策をまとめる機構やポスト、少なくとも国際人権問題担当相を置き、指揮機能を持ちながら政策を進めていくことが必要だ。 閣僚には権限があるので、それぞれの省庁に呼び掛けて物事を決めることができる。役人任せにせず、政治家が責任を持って決断をすることが重要だ。 ―日本の人権政策へ提言は。 ▽日本は特定の人種や民族の殺害を禁じたジェノサイド(集団殺害)条約を批准すべきだ。現在イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザでは、イスラエル軍による人民の虐殺が行われ、罪のない子どもたちが戦争の犠牲になっている。これはどう見ても国際法に抵触する戦争犯罪であり、ジェノサイドに近いものだと言える。 これに対し、国際司法裁判所(ICJ)と国際刑事裁判所(ICC)が、法と証拠に基づいて判断を進めている。ICCでは、戦争犯罪や人道に対する罪などの疑いでイスラエルのネタニヤフ首相の逮捕状請求まで行っている。パレスチナ自治区における人道状況は対外的に許されることではなく、国際社会で声を上げて正していくためにも、条約の批准に向けた国内の議論を進めるべきだ。