「安さにこだわる」東西の人気温泉施設 統合の背後に、ある危機感
温泉宿泊施設を運営する「大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ」(東京都中央区)と「湯快リゾート」(京都市)は1日、両社の温泉施設の名称を「大江戸温泉物語」に統一した。物価高やインバウンド(訪日外国人客)の急増などで宿泊料金が高騰するなか、両社は「リーズナブル」を最優先するという。東西の人気宿泊施設が統合する狙いとは。 ◇日本人の国内旅行者数は減少 「もっと気軽に誘い合って何度も温泉旅行を楽しんでほしい。その力になりたい」。10月25日に東京都内で開かれた記者発表会で、湯快リゾートの西谷浩司社長はブランド統合の経緯をこう語った。 国土交通省の旅行・観光消費動向調査によると、2024年4~6月の日本人の国内旅行消費額(速報値)は6兆4518億円。新型コロナウイルス禍前の19年同期比で7・6%増えた。その一方で、日本人の国内旅行者数でみると延べ1億4540万人と、同11・4%減っている。 「物価高に伴う節約志向や旅行習慣の意欲低下が影響している。このままでは旅行が日常から遠ざかり、旅行文化が希薄化する恐れがある」と西谷氏。そんな日本人の“国内旅行離れ”への危機感から、温泉旅行で日本各地の魅力に触れるきっかけを作ろうと、両社のコンセプトである「全ての世代に親しみやすい温泉」を目指し、施設のリニューアルを加速する考えだ。 ◇コスト削減でメニュー充実 大江戸温泉物語は東日本を中心に37施設、湯快リゾートは西日本に29施設を構える。家族連れに人気の両雄の統合によって、全国66施設を持つ日本最大級の温泉宿となった。 大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツの橋本啓太社長は、自社の強みについて「他社で提供している価値と同等のものが安い、リーズナブルである。これは絶対的な(他の温泉施設との)差別化ポイントだ」と強調する。 統合による最大のメリットは業務の効率化やコスト削減だ。提供するバイキング形式の食事メニューは両者で食材の仕入れを統一するなどし、全施設で人気メニューを展開する。それでいて「画一的なマネジメントにならないように」(橋本氏)と、ご当地メニューの強化を進め、地域の特徴を出すことにもこだわる。 ◇低価格維持へ「研ぎ澄ます」 橋本氏は「原材料や水道など光熱費の高騰により、一部は価格転嫁せざるを得ないので、これまで以上に安くする方向性ではない」とも語る。 サービスや料金などのニーズに合わせて4タイプの施設を用意。最も上級な「TAOYA」は平日1人当たり2万円台だが、最も安い大江戸温泉物語(スタンダード)は平日1人当たり1万円を切ることもあるという。 低価格にこだわるのは、「もっと気軽に何度でも」という創業の精神にあるという。橋本氏は「宿泊料金をリーズナブルに抑え、そのかわり何度も旅行に行っていただく。仕入れ価格などを研ぎ澄ませ、宿泊料金を上げないことを磨いていくべきだ。確実に、1万円という価格帯をしっかり維持できるような温泉旅館のブランド展開をしていきたい」と意気込んでいる。【佐久間一輝】