ドイツ「エネルギー転換」の深すぎる闇…脱原発・再エネ拡大に伴う膨大なコストは全て国民の電気代に上乗せされ
国民はミスリードされたまま
しかし、緑の党は今もこの路線を死守。何が何でも再エネを拡大するつもりだ。再エネは適度に使うのは良いが、増えすぎた時の不都合を、彼らは完全に無視する。 今でさえ、370万枚の太陽光パネル(24年1月現在・連邦統計庁の資料)と3万本の風車が、太陽が照り、風が吹くと、一斉に発電を始める。電気は常に需要に供給を合わせなければならないため、需要分を超えて系統に流れ込んだ電気は、即刻、どこかに逃さなければならず、隣国にお金を払って引き取ってもらうケースも珍しくない。たとえば5月半ばはそれが8日も連続で起こった。 ただ、そういう日でも太陽が沈むと状況は一変。火力をフルに立ち上げ、さらに足りない分は隣国から、今度は通常の何倍もの値段で買うことになる。要するに、ドイツ自慢のエネルギー転換は、他国の原子力と火力にどっぷり依存している。しかも、この不幸な状態は、供給を制御できない再エネ電源を増やしていく限り、改善される目処はない。 また、送電線の交通整理もどんどん困難になっており、今も膨大な費用が費やされている。しかし、ハーベック氏の目標は、現在3万本の風車を10万本に増やすというものだ。 一方、これら再エネの拡大により利益を得ている人たちも、もちろんいる。 1)電気がタダであろうが、マイナス価格であろうが、さらにいうなら、送電線がパンクしそうなので発電停止を要請された場合でさえ、決まった収益を保証されている再エネ発電者、2)安価な、あるいはお金付きの電気をもらう外国の購買者、3)破格の値段でドイツに電気を売る外国の発電者、4)需要と供給の安定保持に従事するドイツの系統管理者だ。 そして、これら膨大なコストが、すべて国民の支払う電気代に「配・送電系統使用料」として乗せられているのだから、ドイツの電気代が高いのは、ハーベック氏がいうように、プーチンのせいでも、ウクライナ戦争のせいでもない。クライ氏曰く、「ウクライナ戦争、経済危機、エネルギー転換の組み合わせは無責任である」。 ただ、メディアはいまだに政府を庇い、国民はミスリードされたまま。だから、現在の状況さえ我慢して切り抜ければ、そのうち再エネ100%で電気代がタダになると信じている人も多い。 ドイツのエネルギー転換を一言で表すなら、「亡国の政策」だ。ドイツ経済は落ち込んでおり、再興は再エネの拡大では起こり得ない。その反対で、ドイツの未来はまさに、エネルギー転換の再転換に掛かっている。そのためにも、キケロ誌の訴えが通り、経済省の議事録の全ての黒塗りが取れ、真実が国民に知らされる日が1日も早く来ることが待ち望まれる。
川口 マーン 惠美(作家)