ドイツ「エネルギー転換」の深すぎる闇…脱原発・再エネ拡大に伴う膨大なコストは全て国民の電気代に上乗せされ
電力会社が抗議の声を上げた
これにより窮地に陥ったのは、ハーベック経済相だ。緑の党の悲願達成のため、故意に誤情報を流布したとすれば、国家と国民に対する裏切りだ。 なお、キケロ誌によると、ハーベック氏はグライヒェン氏ら官僚グループにうまく丸め込まれただけで、事実を知らされていなかった可能性もあるということだったが、もしそうなら省内を掌握できていなかったわけで、しかも、官僚に言われたことを鵜呑みにして、国民にとって有害な“気候政策”を実行に移したことになり、それはそれで大問題だった。 追い詰められたハーベック氏は、「脱原発に関しては電力会社に相談して遂行した。エネルギー業界と自分の意見は一致していた」と主張。しかし、その途端、今度は電力会社が抗議の声を上げた。 5月5日、n-tvのオンライン版に、カール・ルドウィッグ・クライ氏のインタビュー記事が掲載された。記事のタイトルは、『失礼ながら、バカげています』。 ● Ex-Eon-Aufsichtsrat zum AKW-Aus "Mit Verlaub, das ist Unsinn"(05.05.2024) クライ氏は16年から23年までドイツ最大の電力コンツェルンE・ON社の監査役会の会長で、その前は世界的化学コンツェルン「メルク」のCEO、現在はルフトハンザの監査役員会の会長である。その氏が前述のインタビューで、キケロの分析は自身の見解と一致すると述べ、ハーベック氏の主張が虚偽であることを指摘した。 例えばハーベック氏は、稼働延長ができない理由として、新しい燃料棒の調達が困難であること、また、電力会社が原発の安全性を確認できなかったことを挙げたが、クライ氏によれば、そのような事実はなかったという。新しい燃料棒が来るまでは、従来の燃料棒の組み替えで問題なく稼働はできた。つまり、経済省は発注さえすればよかった。 そこでE・ONは当時、稼働延長の決定は早ければ早いほど良いからと何度も注進したというが、ハーベック氏は手遅れになるのを待つかのように決定を引き伸ばし、結局、核燃料棒も注文せず、最終的に本当に手遅れになった。また、ハーベック氏が言うような安全性の問題も存在しなかった。 さらにハーベック氏は、「脱原発で失われる電力は大した意味がない」と主張したが、この計4.4ギガワットの電力の代替を石炭でやれば、少なくとも1500万トンのCO2が出る。しかもコストは、原子力の1kWhあたり2セントに比べて、ガスならその10倍だった。「これが意味のない事なら、何に意味があるのか?」とクライ氏は問う。 氏によれば、実は22年秋のストレステストの結果、原発は必要という結論が出ていたが、ハーベック氏、あるいは、氏の背後にいた勢力にはこれが気に入らなかった。そこでハーベック氏は妥協案として、原発を予備にし、電力が足りなくなった時だけ稼働させることを提案した。しかし、原発は技術的に、付けたり消したりは不向きである。つまり、このような素人考えをエネルギー大臣が口にしたということ自体が、専門家不在の証明だった。 当時、電力会社側はハーベック氏のこの提案を、「原発はトースターではない」と一笑に付している。「なぜ、ハーベック氏が原子力を忌避するのかはわからないが、彼が稼働延長をしなかった理由はまさに嫌いだったからだ。なのに今になって、過去の議事録やメールに手を加えるとは何事か」とクライ氏。