ドイツ「エネルギー転換」の深すぎる闇…脱原発・再エネ拡大に伴う膨大なコストは全て国民の電気代に上乗せされ
原発停止を決定した根拠と経緯
ドイツに『Cicero』という独立系の月刊誌がある。ローマ時代の政治家兼哲学者であったキケロからの命名だろう。2004年の発刊だが、戦後、多大な影響力を誇ってきた『シュピーゲル』誌がいつの間にかすっかり左傾化してしまったこともあり、今や保守の言論誌として貴重な存在だ。 【写真】SDGsの不都合な真実…投資目的の「脱炭素政策」は人類を幸せにするか そのキケロ誌が22年夏、経済・気候保護省(以下・経済省)に対し、ウクライナ戦争勃発後、原発停止が決定されるにあたって、省内でどのような議論が行われたのか、その経緯のわかる通信記録や議事録の閲覧を求めた。EUでは、環境に関する情報については、市民全員に官庁の情報にアクセスする権利が保障されている。 ドイツで最後の3基の原発が止まったのが23年4月15日。当時はエネルギー危機の真っ最中で、専門家のみならず、元来、原発アレルギーの激しかった国民の間でも、原発の稼働延長を支持する声が上がり始めていた。 しかし、ハーベック経済・気候保護相は、「ドイツには電気の問題はない」、「脱原発で失われる電力はさして重要ではない」と主張。絶好調で動いていた最後の3基の原発を止め、緑の党の悲願である脱原発を果たした。ちなみにドイツにおけるエネルギー政策は経済・気候保護省(以下・経済省)、原発の安全性については環境省が担当するが、現在、その両方を緑の党が仕切っている。 ただ、その後、電気は供給が不安定化し、さらに料金は高止まりで、問題がないどころか、今では産業の足を引っ張る最大要因だ。しかも、電力不足を補うため、予備用の古い石炭火力まで動員している始末。つまり、経済省がなぜこのような不毛な政策を進めたのか、その根拠を知りたいと思ったのはキケロ誌だけでなく、国民も同様だった。 ところが経済省はキケロの要請を事実上、拒否。守秘義務を盾に、なけなしの資料しか出さなかった。そこで、キケロはベルリン市(ベルリンは特別市なので州扱い)の行政裁判所に訴え、その結果、23年9月25日、同裁判所が審理を進めるため、経済省に情報の提出を命じた。ところが、その半年後の今年の3月末、経済省がようやく出してきた資料は、多くの部分が黒塗りだったので、現在、キケロが再度、提出を求めるという事態に発展している。 ただ、いくら黒塗りであっても、その資料からはすでに多くの事実が垣間見える。 まず、ドイツの脱原発が、主に経済・環境両省のトップ官僚の主導で進められたという事実。ちなみに両省の官僚が、「アゴラ・エネルギーヴェンデ」という絶大な力を持つ左翼NGOと密接すぎる関係にあることは、すでに以前より知られている。 例えば、ハーベック経済相の右腕であり、今回の脱原発の立役者であったグライヒェン次官は、経済省に来る直前までアゴラの代表だった(氏はすでに昨年、同NGOとの過度な癒着や縁故採用が問題になり更迭済み)。 それ以外でも、アゴラを始めとするNGOと、経済省、および環境省との人材の往来は極めて活発で、端的に言えば、ドイツの環境政策は、官僚の座に座っているいわば活動家たちによって仕切られていた。 言い換えればそれは、国家経済など意に介せず、ひたすら脱原発、脱炭素という自分たちのドグマの実現に向かって突き進む人たちである。 一方で、当時の経済省は、多額の報酬でエネルギーの専門家を起用し、原発稼働延長の可能性を審議させた。ただ、これは一種のアリバイのようなものだったらしく、実際には専門家はほとんど意見を求められず、たとえ求められても、経済省や環境省の意に沿わないものは無視されたという。 つまり、脱原発の決定は、科学にも経済学にも裏打ちされていなかった可能性が極めて高い。経済省が過去の資料を開示できないのは、不思議でも何でもなかった。