逹瑯「MUCCでやったことのない制作」最新作で描く新境地:インタビュー
MUCCのボーカル・逹瑯がミニアルバム『MONOCHROME』を発表。1月15日にリリース(1月8日にCD先行発売)となる。“MUCCではやったことのない”制作だったという、2024年4月リリースの3rdフルアルバム『COLORS』の続編となる本作。MUCC、ソロワークスと精力的に活動した2024年を振り返りつつ、「自分に楽曲提供作品を作っているような感覚」と語る最新のアプローチで生み出された本作全貌に迫る。前作から続く本作で見えてきた景色とは――。 ■制作においての“縛り”とは? ――2024年のMUCCとソロワークス各活動を振り返り、かなりご多忙だったのでは? 多忙の最中ですね!(取材時点2024年12月)12月22日に年内のライブおさめをして、そこから年末年始ずっと歌録りなので、1月末までゆっくりできることはなさそうです。 ――そんな中リリースされた本作のコンセプトは? 前作『COLORS』を作って見えてきたものがあったんです。ライブツアーで「もっとこういう乗りの曲、空気感の曲がほしい」と感じ、『COLORS』の足りないパーツを埋めていくイメージで作り、『COLORS』との対比、関係性をたてるのに『MONOCHROME』というタイトルがいいと思って作っていきました。 ――“MONOCHROME=白黒・単色”ですが、タイトルに七色のフレーズが含まれていますね。そういった着想から制作を? まずミニアルバムと決まっていて、『COLORS』の続編として、できれば虹色の7曲にしたかったんです。そこで、虹の配色順にできるかどうかやってみないとわからないなと思いました。 先行の「青の刹那」を出した時はまだ、ほぼこの1曲しかなかったけど、どう転んでもいいように「色のタイトルをつけておくか」という構想があったんです。 ――七色の各タイトルを決めることは難しかったのでは? 虹色の順番は決まっているので、その色のイメージにはまりそうな楽曲をアルバムの流れとして成立する曲順と考えて配置し、色のイメージに向かって作詞をしていった感じですね。 ――各色それぞれ違うように、歌詞やサウンド面など全てにおいてカラフルです。 作曲は、リズムや乗りを縛る感じでした。「横乗りの曲」「ジャジーなもの」「ロックンロールやロカビリー」「シンコペーションのロック」など、曲の雰囲気で縛って作ったから四方八方にジャンルがある感じになったんです。 ■『MONOCHROME』の全貌にくまなく迫る ――楽曲「CRIMSON」について、インダストリアル、ロック色が強いですね。 わかりやすいロック、ダークな空気感で世界観が強めでグイグイ引っ張って爆発というのがほしいと思って作っていました。 ――確かにそのイメージです。プログレッシブロックの要素もあって面白いです! そうですね。そういう風に遊びながら! ――歌詞から、死生観を問いかけられる感覚を受けました。 渦巻いて鬱々としたものを「赤」のイメージにしました。生きている命そのもの、血の流れ、感情の起伏など、積もっているものをインナーでぶつぶつと「何が悪いの?」と文句ばかり言っているものを「もういいや!」という感じ。それが途中で吹っ切って全開放するようなイメージですね。 考えれば考えるほど小難しくできるけど「意外とシンプルじゃないか」という爆発力、それがライブの空気にもなったらいいなと思いました。混沌、カオスなイメージですね。人間って複雑だけど「どうでもいいや」となったら凄くシンプルだよなという。 ――次の「焔」はスカパンクの要素がありつつ、清涼感もある曲調ですね。手法として、かなり難しいアプローチだったのでは? ちょっと横乗りのスカやレゲエから、ロックに変わっていく曲にしたかったんです。オレンジ色で合うのがこの曲しかなくて。「オレンジ色って凄い難しいんだけど……」と思って超苦戦しました。色の名前の中で「なんでオレンジ色だけ固有名詞なの?」ってなってくるんですよ! ――そういえば果物に限定されていますね! その色をどこにインスピレーション与えようかと思うと凄く難しくて……その果物に向けるか、夕焼けなど同じオレンジ色に意識を向けるかと迷ったけど、炎の色はオレンジ色に近いよなと! 炎っていろんな感情を投影したり、人間にとって切っても切り離せないものだから「炎を取り巻くもので一曲の歌詞が書ける」という気がしたんです。そこにしっくりきてからは、わりと早かったですね! ――歌詞には様々なオレンジ色の対象が書かれていますね。 火にまつわる言葉をちりばめていくのが面白かったですね。「火」にまつわる言葉を思いっきり使おうと思って(笑)。 ――<篝火><火種><火蓋>など様々あり振り切ってますね(笑)。スカやロックが主体にありつつレゲエやダブもあり、火の変化にかかっていると感じます。 曲が先に出来て、後から歌詞を乗っけているので、サウンド的なインスピレーションを受けていると思いますね。 ――全体を通して「逹瑯さんのソロ作品だ」という説得力、濃い感覚を受けます。足立房文さんとの共作に馴染んできたからでしょうか? そうだと思います! ソロでの色が出てきたのだとしたら、やっぱり嬉しいですね。 ――「黄昏のエレジー」もシティポップ、ジャジー、ジプシーな雰囲気と多くの要素が入っており、サウンドの融合、歌詞の着想と、両面とも難しかったのでは? そうですね! 歌詞は、黄色の明るいイメージを思い浮かべている時に「“黄昏”は黄色が入っている」と思ったんです。その「黄昏」という言葉がパンとはまった時に「バッチリ!」という感じでしたね。「黄昏」というワードにこの曲の空気感が合うので、その景色感や浮かぶイメージが出て「この曲は大丈夫」と思いました。 ――「黄昏れる」という感情が、歌詞全体の文字量のコンパクトさにもフィットしていると思いました。 余白を残して「どう解釈するの?」と楽しんでもらうというか、そういう書き方をしていたかもしれないですね。アンニュイなモヤっとした感じ、煮え切らない感じもある曲にという風に作っていました。 ――どこか、感傷に浸りきれないといったような印象も受けました。そこは “余白を残した”ことがそうさせた? 曲自体が凄く素敵だったので、そこに寄り添う感じにと思っていました。特に大きな出来事や印象的なことは歌にしやすいんです。そういう最大瞬間風速でもいいけど、楽曲的に漂っている感じだったので、日常の心情を切り取るのもいいかなと思ったんです。 不満もなく現状に満足していると言えばしているけど、「強いて言うならモヤモヤすることもあるよね」と、そんな温度感の曲でもいいかなと。 ――逹瑯さんからの問いかけでリスナーが考える一面もあると感じます。 日常に満足しているけど、「本当に満足しているか?」と言われれば「う~ん……」というくらいの温度感というか、それくらいの歌でいいなと! 「満たされているけど何かが足りない、それは何だろう?」みたいな心のポケット感が「黄昏」というワードと、出てくるイメージの絵で合うと思って書いていました。 ――曲調の色彩の豊かさと合致して魅力的です。「Cat’s Eye」は直接的な色の言葉ではありませんね? 猫の目って青や緑、グレーなど様々だけど、この曲に関しては黒猫のイメージなんです。黒猫の目ってだいたい緑ですよね? ――これまで自分が見てきた黒猫の目は全て緑色でした! 曲調がロカビリーで、BLACK CATS(※日本のロカビリーバンド)というのもあったり、猫の目で緑がいいかなと、そう落とし込んだらカッコいいかなと思って出てきました。ロカビリーの曲を昔から特によく聴いてきたという訳ではないけど、ロカビリーがけっこう好きなんです。ライブでもフックになるし、ジャズなどいろんな曲と相性がいいので場面転換にもなったりするんです。これは「ロカビリーがやりたい」と言って進んだ曲ですね。 MUCCでもけっこうロカビリーの曲があるんですけど、それはそのテイストがありつつもMUCCの音像の比重が多めなんです。ソロの方ではがっつり「ロカビリーの曲をやりたい」という風に寄せて遊んだ感じですかね。 ■「青の刹那」制作時の“偶然の一致” ――リード曲「青の刹那」について、タイトルと楽曲全ての要素が合致していると思いました。だから着想が何かと想像がつかなかったんです。 これは元々の“リズム縛り”というところからのシンコペーションのロック曲、ライブで拳が上がるような曲がいいなと思い作っていました。ギターのプリプロなどをしている時、シンコペのロック曲はビジュアル系の曲でもいっぱいあるけど、THE BACK HORNの曲「コバルトブルー」などのイメージだなと思って進めました。 そうしたら、その日がたまたま終戦記念日だったんです。「コバルトブルー」も特攻隊について歌っているような曲だし、「今日もその日だし凄いですね……」という話をしていて。 そこまで偶然が「凄い」となるのなら、この曲もその世界観の中の特攻隊が一夜を過ごしている隊の中の別の登場人物の書き方にしようかと思いました。「コバルトブルー」の中でみんなが飲み明かしているところから、ちょっと外れたところにいるイメージの、同じ隊の仲間の歌にしてみようかなと思って書いていました。 ――そのお話を聞いてから歌詞を読むと……隊の出発前のシーン? はい。出発前のシーンから、2番目のサビの終わりの静かなピアノからギターソロに入っていくところは飛行機が飛んでいくイメージです。 ――確かに! そうなると “刹那”という言葉は、この楽曲全ての要素にかかるとも捉えられます。 そうですね。終戦記念日の偶然などがそこまで重なったのなら、寄せていこうかなと思ったんです。この曲はイメージ、空気感、景色、主人公の人物像と、明確なイメージがあり、楽曲とのシンクロ率が高かったんです。 ■二部作ラストの曲に込められた想い ――6曲目「藍青症」(らんせいしょう)の言葉の意味合いとしては? 藍青症って書いているけど読み方は「チアノーゼ」(※皮膚や粘膜が青紫色になる状態)なんです。この曲はラストかその前と思っていました。曲自体は空の下で開けているイメージです。 藍色について調べていたらチアノーゼの日本名が藍青症とわかり、この曲のエモーショナルで開けているけど息が詰まっていくという、俺が受ける印象とチアノーゼがめちゃ相性いいと思ったんです。そこからいろいろと掘っていきました。 ――サウンド面のやりとりとしては? ミドルテンポの綺麗な歌ものだけど、激しいロックでいこうと。本当はサビが別のロック曲で作っていたものでしたが、「AメロとBメロは好きなんだけど、あっちの曲のサビをもってこようか?」となり、くっつけて調整してまとまったんです。それで凄くいいパズルだったなと。もうちょっと歌ものだったけど、このサビにすることによってロック感、エモ感が増したんです。 ――セクションを混ぜる手法があったのですね。そして最後の曲は宝石の「アメジスト」の紫色? この曲は最後がいいと思っていました。「藍青症」がラストだと考えたらアルバム全体のイメージ、「締めが暗いとな……」と思い、この明るい曲で締めたいと。 曲順に対して、例えば虹の色の順番がばらばらだとすると、黄色、緑色、赤だろうが、たぶん各色のイメージの宝石の色をつけていたと思うんです。石言葉、宝石言葉のイメージが外れないものの、宝石の名前の何かしらをつけて、この曲は最後に持ってきたと思うんです。 そういうこともあり、この曲はどうしても最後がよくて、紫色のいろんな宝石がある中からどれがいいかなと、「アメジスト」にした感じです。 ――前作『COLORS』と今作の二部作としても、「アメジスト」はラストにふさわしいと感じました。緊張感のある導入から爽やかになる展開が紫色に合っていると。 雲が晴れていくような感じにしたかったんです。ここまでいろいろモヤモヤ考えていたけど、「雲も晴れて虹が架かったよね」みたいな。七色の最後の曲に<レインボー>という言葉も入れたかったし、この曲はここだな、という感じですね。 ――アルバムを通して聴くとすごく素敵なパッケージ感というか、コンセプトアルバムと言っていいのではないかと感じました。 色とリズムに縛って作っていくコンセプトがあったので、そうかもしれないですね(笑)。 ■「MUCCではやったことのない感じ」とは? ――歌詞において、言葉選びやボキャブラリー面で多いインプット要素は? いろいろとありますが、例えば他の方の音楽を聴いていて「こういう表現をするんだ」「そういう言葉の使い方をするのか」など、言葉の使い方の仕組みや、あるジャンルと別のジャンルの言葉を組み合わせると「そういう響きやイメージの広がり方をして、こういう効果になるのか」という気づきなどがあります。 日々、自分の周波数って違うじゃないですか? 出会った言葉にひっかかったタイミングというのがあると思うんです。そういうときにハッと思ってメモしたりするんです。 ――言われてみると、このタイミングで自分は“周波数”という言葉は出てこないんです。今後、何かの機会で「ここは“周波数”だ」と、この言葉を選ぶようになると思います。この感覚でしょうか? そうなんだ(笑)。そうかも! ――人とのコミュニケーションも語彙の源泉となっているのですね。 出会うタイミングですよね。その周波数という言葉が、違う日だったら引っかからない場合などがあるじゃないですか? そもそも出会わなかったかもしれないし。その“一瞬、動いたワード”が大事だなという気がします。 ――ライブにも似た感覚があると感じます。さて、前作のインタビュー時に「凄くパーソナルな作品になった」「方向性をグイッと定め――『ここに到着しました』という作品に」と仰っていましたが、今作ではさらに解像度が高まった? 前回とは作り方も違うので一概には言えないんですけど、MUCCの方に関してはやったことのない感じで制作したんです。新しいことをしながらで面白かったですね。よりパーソナルというかは、自分で自分に楽曲提供作品を作っているような感覚でした。 ――凄く面白そうな感覚ですね! わかりづらい感覚かもしれないけど、そんな感じだった(笑)。「この人にこういうテイストの曲、歌詞、歌い方でやってみてもらったら面白そうかな」みたいな風に書いていた感じですね。 ■“答え合わせと次のヒント”に向かって ――2024年、MUCCにソロワークス、そのほかにも精力的に活動されていました。逹瑯さんのお好きな釣りやキャンプなど、リラックスの時間はとれていましたか? 全然キャンプできてないですよ! もう11月、12月行けてないので1月末には行けるかなと、もう3カ月行けていない感じなんですよ。一番いい時期逃したマジで……。 ――それだけご多忙な1年だったんですね。 そうだし、なんとか乗り切れてよかったという感じですね(笑)。 ――よかったです(笑)。1月にソロワークス東名阪ツアーを控えていますね。 本数はそこまでたくさんできないので、その中でしっかりやって、今回の答え合わせと次に繋がるヒントを見つけられるライブにしたいです。一本一本意味のあるライブになったらいいなと思います。 ――前作と今作の二部作を完成させ、新たに見えてきた道筋や課題などはありますか? ライブをやらないとまだわかならいですね。これまでは、まとまって東名阪などを周れる時期、期間内でのスケジュールだったけど、これからは別に1本だけライブをやってもいいなと思って。 「この月で1本」「どの月で1本ライブをする」など、イレギュラーなワンマンライブが入ってもいいのかなと、なんとなく思っています。期間が空きすぎちゃうと感覚が抜けちゃうので。 ――以前、ライブと制作それぞれのモードがあると仰っていましたね。 そう。あまり感覚が抜けないように、たまにポンポンとやっていきたいと思っているけど、上手くいくかどうかはまだわからないですね! (おわり) 取材・文◎平吉賢治 撮影◎冨田味我