「オーバーツーリズム問題」に“二重価格”は有効も…日本人は「安い国」になった事実を受け入れられるか
日本人がブチ切れる日
これまで日本は、外国人観光客を増やそうと、JRの特急・新幹線が乗り放題という「周遊券」を用意するなど、おもてなしをしてきた。だが、もはやそんなことをする余裕はない。ここは自らが衰退国で貧乏国、でもサービスと品質だけは世界最高峰、ということを認め、外国人からは多額のカネを取ることを考えるべき状況になっている。これは差別ではない。 エジプトのピラミッドでは、エジプト・中東の人は約200円で、その他は約1800円。先進国かつ金持ち国であるフランスのルーブル美術館は、外国人とEU圏の人関係なく22ユーロ(約3600円)だが、26歳以下のEU圏の人は無料。EUの若者を対象に二重価格を設定しているのだ。外国人でも18歳以下は無料という点は文化を重視するフランスの懐の深さを感じる。そして、これは自国民を大切にしていることの表れだ。 現在のオーバーツーリズム・観光公害の状況を鑑みると、いつ日本人がブチ切れるか分からない。日本人がおとなしく穏やかなのをいいことに、海外の迷惑系YouTuberが我が物顔で不遜な行為をし、日本へのヘイト発言を配信しているが、大阪で彼と仲間は殴られた。ただし殴ったのは白人男性だったが。韓国でも同様の行為をした彼は韓国人に殴られた。今後、この手の暴力行為を日本人がしないとも限らない。
「お・も・て・な・し」と言っている場合ではない
外国人観光客の増加に伴うストレスがさらに積み重なると、排斥運動に発展しかねない。実際、他国ではすでに起きている。たとえばスペインがそうだ。EU圏内では比較的物価が安く、さらに温暖な気候とおいしい食事から観光客に大人気のスペインは、そのせいで観光公害が発生し、「Tourists go home」と書かれた横断幕が街に掲げられたりした。 Business Insiderによると、今年7月には150の活動団体を含む数千人規模が参加する観光客への抗議デモも行われた。中には観光客に水鉄砲で水を浴びせたり、レストランの屋外席で食事をする観光客を揶揄するボードを掲げ、撮影をすることも。 デモ参加者の言い分は、【1】(スペイン随一の観光都市である)バルセロナは市民のための街であるべき【2】ホテルやレストラン等観光業は潤うが一般市民は潤わない【3】家賃も物価も上がって苦しい――などである。結果的にバルセロナ市は観光税を値上げし、観光客が利用する住宅の短期賃貸を廃止する計画を策定した。 これも日本の将来の姿かもしれない。というか、【1】【2】【3】は観光地に住む日本人の気持ちと完全に一致している。京都の人々と喋るとほぼ同様のことを声を潜めて言う。広島の人気観光地・宮島がオーバーツーリズム対策で2023年に一律100円の「宮島訪問税」を導入したが、大きな混乱はなく、観光客の理解も得られているという。日本政府はまず、現状把握をし、対策に乗り出すべきである。もはや「お・も・て・な・し」などと言ってる余裕は日本の庶民にはない。 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部
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