IT系フリーランス男性を追い詰めた役所の非情 「自力で部屋を借りる事がこんなに難しいとは」
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。 【写真】悪徳業者が紹介した、複数のホースと配線がむき出しの部屋 ■悪質貧困ビジネス業者に騙され… 閑静な住宅街の中、築57年の木造アパートがどこか場違いな空気を醸し出す。急な石階段を上り案内されたのは、6畳一間ほどの一室。がたつく扉を開けると、排気ダクトやガス管と思われる複数のホースと配線がむき出しのまま壁を這っているのが目に入った。窓際にかかるカーテンは紙製。建物が傾いているのか、壁にはわずかなすき間があり、近づくと隣室が見え、ギョッとした。
「すみません。自分、ここは無理です」。ずさんな造りの室内を一目見てマサルさん(仮名、53歳)さんは言った。しかし、同行していた男はこううそぶいた。「さっきした契約、覚えてますよね」。 マサルさんは直前にこの部屋の2カ月間の借家契約に加え、期間内に解約した場合は違約金として6カ月分の家賃を払うという合意書にサインをしていた。家賃は5万2000円。相場と比べてあまりに割高なうえ、6カ月分となると30万円以上だ。
【写真】家賃6カ月分の違約金を払うとする「合意書」、築57年のアパートの室内、2万円で売りつけられた布団、1万6000円で買わされた食料 男の言いぐさは、この部屋が嫌なら違約金を払えという脅しに等しい。言葉に詰まるマサルさんに対し、男はなぜか「じゃあ、市役所に行きましょうか」と促してきたという。 フリーランスとして動画編集などを請け負っていたマサルさんは昨年秋、突然住まいを失った。長年、定期借家契約を繰り返してアパートで暮らしていたが、家主が変わり、退去を求められたのだ。定期借家契約は普通借家契約と違い、原則契約更新ができない。新しい家主からは「よくわからない仕事をしている人には貸せない」と言われたという。