県都と地方の医師数格差は最大3.7倍 年々増える高齢者救急搬送 軽症・中等症受け入れる1次・2次救急体制逼迫に医療関係者ら危機感 鹿児島県内
県の救命救急センター(3次救急)に、鹿児島市の米盛病院が指定される。県内では指定に慎重な立場の医療関係者が少なくなかった。背景に、高齢化による軽症・中等症の高齢患者の増加、医師の不足や働き方改革で地方の医療が細る現状がある。「まずは地域の1次、2次救急体制の整備を」との声が聞かれる。 【写真】高齢者の傷病程度別搬送状況
12日午前、鹿児島市のいまきいれ総合病院に、80代男性が救急搬送されてきた。40度以上の発熱があり動けなくなったという。家族によると介護タクシーが捕まらず、かかりつけ医に相談して救急車を呼んだ。「お名前は言えますか」。迎えた医師らが声をかけ院内へ運んだ。 ●三つの区分 救急医療は三つの区分がある。1次救急は軽症者が対象で、2次救急は主に入院や手術が必要な患者を診る。2次で対応できない重篤な患者を受け入れるのが3次救急だ。 2次救急医療機関である同病院は年間約5000件の搬送を受け入れる。患者は県内各地から運ばれ、感染症から脳卒中までさまざま。中でも高齢の軽症、中等症患者が目立つ。 ●高齢者搬送増加 県内で高齢者の救急搬送が増えている。県消防年報では、2021年に搬送された65歳以上は4万9561人で全体の67.0%。11年に比べ約1万人増えた。軽症・中等症が86.5%で10年間で6.4ポイント増えた一方、重症は12.2%で6.2ポイント減った。
浜崎秀一院長は「高齢者の救急搬送はさらに増えると予想され、このままでは2次救急医療機関の対応能力を超えることは避けられない」と危機感を抱く。今給黎和幸理事長は今後の高齢者救急を見据え、「適切な受診行為などを啓発しつつ、1次、2次の救急医療機関が連携し、オールかごしまで対応する必要がある」と話す。 県内の人口10万人当たりの平均医師数は22年で298.7人。鹿児島医療圏以外は、いずれも全国平均を下回る。同医療圏と最小の曽於医療圏では3.7倍の格差がある。医師の高齢化も進む。平均年齢は53.4歳で、全国より3.1歳高い。 ●モデル事業 重症者救急で昨秋、鹿児島大学と川内市医師会、2次・3次救急を担う鹿児島市の5病院が連携を始めた。鹿児島市立病院を窓口に、それぞれ得意分野を持つ各病院の状況を可視化し、薩摩川内市の患者を迅速に受け入れるモデル事業だ。参加する鹿児島医療センターの田中康博院長は「中小病院が多い鹿児島では“連携”しかない。行政も医療資源が先細る地方の現状にもっと目を向け、1~3次救急のネットワークなど新しい仕組みを一緒につくっていかなければ」と語る。
鹿大病院救命救急センター長で、鹿児島救急医学会の垣花泰之会長は「開業医が減る中、最後まで残るのは公立病院」とし、県立病院などを充実させ、そこを拠点とする地域連携体制の必要性を訴える。「連携と共に、高度な知識や技能を持つ特定看護師、診療看護師を増やし、医師の働き方改革につなげることが大切」と話した。
南日本新聞 | 鹿児島