日本人には手本?自己主張のための進行遅れは気にしないインド人の時間感覚
日本人の良き手本?
進行プログラムをチェックすると、どうやらインド人の発表が集中しているセクションの司会者にはインド人を充て、日本人や他国の発表者には、日本人や中国人を充てていることからがわかった。インド人も自国民のアクの強さは、他国民では制御できないと認識しているようだ。 結局、コーヒーブレークの半分をクッション(調整)タイムに使ったものの、全く足りず、午後の部は1時間以上遅れてスタートした。日本人や他の国の出席者は予定時間内に収めたものの、すべての発表が終了した時点で予定は2時間半遅れていた。夕方にはレセプションが予定されており、副主催者の日本側と相談のうえ、2時間の予定の討論会をそっくり落として、レセプションに間に合わせた。 何度もインドでの学会を経験している大学教授によれば、通常は途中で2時間遅れて深夜になっても、そのままプログラムは続行されるとのこと。当然翌日の開始時間もずれて、またまた遅れるそうだ。 このときも翌日は複数の現地企業の視察のスケジュールが組まれていて、交通渋滞のためにベタ遅れになったが、各社の役員はきちんと待っていた。しかも、「遅れ」についての言及はあるものの、「嫌みの一言」や視察時間を短くして「遅れを取り戻す」ような配慮は、全くなかった。遅刻や遅れは「悪いこと」ではなく、「仕方のないこと」との受け止め方のようだ。 アジアは東アジアの日本から、タイ、ミャンマーまでの東南アジア、インド、パキスタンなどの南アジア、中東などの西アジアに分かれるが、日本人が深く理解しているアジアは、東アジアと東南アジアだけに過ぎないようだ。 日本もアジア一円で行動をしようと思うならば、「協調よりも自己主張に重きを置く」したたかなインド人の時間感覚に呑み込まれないようにしていかなければならない。 ---------- 織田一朗(時の研究家)山口大学時間学研究所客員教授 1947年生まれ。71年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。(株)服部時計店(現セイコー)入社。国内時計営業、名古屋営業所、宣伝、広報、総務、秘書室勤務を経て、97年独立。以後、執筆、テレビ・ラジオ出演、講演などで活動。日本時間学会理事(2009年6月~)、山口大学時間学研究所客員教授(2012年4月~) 著作:『時計の科学―人と時間の5000年の歴史』(講談社ブルーバックス)『「世界最速の男」をとらえろ!』(草思社)『時と時計の雑学事典』(ワールドフォトプレス)『あなたの人生の残り時間は?』(草思社)『「時」の国際バトル』(文春新書)『知ってトクする時と時計の最新常識100』(集英社)『時計と人間―そのウォンツと技術―』(裳華房)『時と時計の百科事典』(グリーンアロー出版社)『時計にはなぜ誤差が出てくるのか』(中央書院)『歴史の陰に時計あり!!』(グリーンアロー出版社)『日本人はいつから〈せっかち〉になったか』(PHP新書)『時計の針はなぜ右回りなのか』(草思社)『クオーツが変えた“時”の世界』(日本工業新聞社)など多数。