アメリカの手術室では助手が踊り出す!? シカゴ大学心臓外科医が語る医学のトリビア
私たちは普段から病院に行って医師の治療を受けたり、医療ドラマや小説を見て医師とその周囲の人々の様子を垣間見たりしている。しかし本物の医師がどのような仕事をしているのか、手術室の中でどのようなことが起きているのかなどを知る一般人は少ない。身近に存在しているが謎の多い世界。それが医学の世界だろう。 そこで今回紹介したいのが、シカゴ大学心臓外科医・北原大翔氏の著書『本物の医学への招待 驚くほど面白い手術室の世界』(KADOKAWA)。同書では、興味深い医学や医療現場のトリビアが、1ページまたは見開き完結で紹介されている。 「この本は、私が日本とアメリカ、両国で働いてきた経験を礎に、医師の視点から見た病院・医療の実態や、外科医として手術室の中で体験した事象を、すべての方々に理解してもらう目的で作りました」(同書より) 同書で触れられているトリビアは、手術室での出来事についてや、人体の不思議、医療従事者の裏事情や医師と患者の関係についてなど多岐にわたる。具体的にどのようなトリビアが紹介されているのか、その一部を紹介しよう。 例えば「人間の肉を切るときは匂いがするのか」という疑問に対し、北原氏は次のようなトリビアを披露している。 「手術中はマスクをつけているので、匂いはほとんどわからないのである。電気メスで筋肉を切るときなどは、肉を焼いたような匂いがしているかもしれない」(同書より) また、「骨を切ったときに出るカスはどうなるのか」という疑問に対してはこのように答えた。 「体に残る。 カスが大きい場合は、取り除いたり水で洗い流したりすることもあるが、小さいものであれば特に気にしない。ただし、心臓の中となると話は変わってくる。 心臓の中にカスが入ってしまったら、それがどんなに小さなものでもすぐに取り除いてきれいにしなければいけない」(同書より) 手術中の匂いや、手術で切除された人体の一部をどうするのかといったことは、一般人にはわからない。実際に外科手術を経験している医師が疑問に答えるだけでなく、どのような理由でそうなっているのかを解説してくれるのは非常に興味深い。 手術についてのトリビアを紹介してきたが、それ以外のトリビアについても紹介しておこう。刑事ドラマやサスペンス映画を観ていて、おなかを刺された人の口元から血が流れ出す、というシーンを目にした人は多いはず。では現実で人が刺された場合、本当に口から血が出てくるものなのだろうか。 「おなかに刺さった包丁がうまいこと胃に当たって、さらにうまいこと胃の中の血管に当たってそこから出血して、さらにその血が胃の中に溜まって逆流すれば、刺された後に口から血が出ないこともない。しかしそれらがすべて起こる確率は、かなり低いだろう」(同書より) 刺された人の口から血が流れるという描写は、作品を盛り上げるための演出であるようだ。創作物の中で描かれる怪我や病気のシーン、手術シーンなどが正しいのかどうかを知れる点も、同書の大きな魅力だろう。 著者の北原氏は、シカゴ大学の心臓外科医だ。そこで忘れてはいけないのが、アメリカの病院に勤務した北原氏だからこそわかる「日本とアメリカの違い」。日本でもアメリカでも、医師がやることは変わらない。「患者を診察し、病気や怪我を治療すること」が彼らの仕事だ。しかし、仕事に対する取り組み方や給料事情は異なる。例えば「アメリカと日本の手術室の違いは?」という疑問に対して、北原氏は次のように答えている。 「手術中に踊りだす人がいるかいないか。 手術室で音楽が流れているのは、日本でもアメリカでもめずらしくない。でもこんな大変なときにこんな陽気な音楽なんて......と思っていると、横で助手をしていたPAが曲のサビにあわせて踊りだしたのだ」(同書より) それを咎めるどころか、むしろ一緒になってリズムを取り出す看護師がいた、というのだからアメリカの手術室は面白い。日本では考えられない状況だろう。医療の現場を通して、2カ国の文化や国民性の違いを垣間見ることができる。 同書には他にも「日本で心臓移植が少ないのはなぜか」「病院でおばけを見たことはあるか」「医師国家試験に合格するために必要なことは何か」など、233ものトリビアが掲載されている。目次を見ればトリビアの掲載順がわかるため、気になるページから読み始めればいい。 紹介されているトリビアは、どれも知的好奇心を刺激するものばかり。医療系の創作物が好きな人や医療現場で働こうと考えている人はもちろん、医療に関心のない人も興味をそそられるだろう。同書を通して、知られざる医学の世界を覗いてみてはいかがだろうか。