【メンエス漫画】出会いと別れを繰り返す爆モテイケメンは本当に幸せなのか?「女の子たちはみんなオレの見かけにしか興味がない…」【作者に聞く】
メンズエステとは、マッサージを中心とした施術で心身の癒やしを提供する男性向けのお店のこと。「メンエス嬢加恋・職業は恋愛です」は、そんなメンズエステを舞台にした創作漫画。肌に触れるだけで人の心の奥底までも理解してしまうメンエス嬢の加恋が、店にやって来た“訳アリ”な客の心身を癒やしそっと背中を押してくれる人間ドラマだ。描くのは漫画家の蒼乃シュウさん(@pinokodoaonoshu)。 【漫画】本編を読む 今回は、「カッコつけ過ぎる男」。顔が良く仕事もできる、ハイスペック男性の茂手美輝。女性にも当然モテるが、これまで付き合った人とは3カ月しか続かない。歯ブラシや部屋着などの私物を持ってきて我が物顔で部屋を占有し、やがて女友達に紹介したがり親に会わせたがる歴代彼女たちの「いつものパターン」に、嫌気がさしていた…。 ■小さな理由で別れを繰り返していると、人間的に成長する機会を逃してしまうのでは? まずは蒼乃シュウさんに、今回の話のテーマを聞いてみた。 「『モテる男は幸せなのか?』ということを描こうと思いました。今回の客の美輝は、恋愛経験が豊富で今まで一度もフラれたこともありません。でも、彼女のイヤな面を見てしまうと面倒になって、すぐに別れたくなってしまいます」 モテるけど関係が長続きしない美輝の特徴について、蒼乃シュウさんはどのように捉えているのだろうか。 「恋人と別れたとしてもすぐに次の恋人ができてしまうので、簡単に別れてしまう癖がついているんだと思います。もちろん、合わない恋人と我慢して付き合い続ける必要はありませんが、せっかく縁あって好意を抱き交際を始めた2人です。『気にくわない』という小さな理由であっさり別れて次から次へと相手を変えてしまっては、何も学べないのではないでしょうか。人間として成長する機会がなく、同じことを繰り返してしまう美輝は、38歳の設定ですが、いつまでたっても中身は少年のままです」 歴代の彼女たちが美輝の顔と年収を気に入り女友達に紹介したがるくだりは、美輝のことを周囲に自慢するための道具として使っているように思えて、個人的には少しゾッとしてしまった。しかし蒼乃シュウさんは、このことも極めて冷静に捉えている。 「美輝自身が上っ面だけの恋愛を繰り返しているので、結局、同じように上っ面だけを求める女性が寄ってくるのでしょうね。自業自得です」 ■「お兄ちゃんでしょ」と言われ親に甘えられなかった寂しい少年時代 女の子たちは自分の見かけにしか興味がなく「誰もオレを心から愛してくれようとしない」と嘆く美輝に、「内面を知られそうになったら、怖がって逃げようとしてるんじゃないの?」と語り掛ける加恋。この言葉を機に、幼い頃のトラウマが蘇る。 物心ついた時から母親は弟と妹につきっきりで、甘えたくても甘えられなかった少年時代。ある日弟を泣かせてしまったところ母親から「弱いものは守ってあげなきゃだめじゃない。あんたは本当に冷たい」と言われてしまう。これは下に兄弟がいる人なら同様の経験がありそうに感じたが、蒼乃シュウさんの実体験を元にしているのだろうか。 「私は二人姉妹の次女で、姉は3つ年上です。幼いころはよくいじめられて泣いていました。なんでそんなにいじめられていたのか長年疑問だったのですが、3歳まで親も親戚もすべての大人が自分に注目していたのに、妹が生まれて一斉にそっちを向いてしまい、姉は大きなショックを受けたそうです。それで赤ちゃんの私に憎しみを抱いた…とか。私には妹も弟もいないので、そういう気持ちは理解できませんでした。しかし、自分へ向けられていた愛情がある日突然全て奪われてしまったとしたら…。悲しみと憎しみが入り交じった気持ちを抱くのも、仕方ないのかもしれないと最近感じました」 母親から無条件で守られる存在の弟に対し、「小さいだけで弱い訳じゃない。ただあざといだけだ」と感じた美輝。そしてこれまで付き合った女性にも感じてきたあざとさに、追い詰められていたと加恋に打ち明ける。 「美輝のようにまだ親に甘えたい幼い子どもが『お兄ちゃんでしょ』と言われて放っておかれたら、きっとやりきれない寂しさを抱えてしまうでしょう。弟のことを『あざとい』と感じて憎んでしまうのも無理はないかなと。付き合う彼女の中に弟のような『あざとさ』を感じ、別れたくなってしまうことも、彼が恋愛が長続きしない理由の一つでしょう。これは自分自身が気づかない限り永遠に繰り返してしまうので、きっと彼が乗り越えなければいけない課題なのだと思います」 ■若いうちに大きな失恋を経験しておいた方がいい!? 今まで付き合ってきた女性の「いつものパターン」にうんざりしていた美輝に対し、「あなたからパターンをやぶってみたらどう?」とアドバイスする加恋。そこで、唯一家に炊飯器を持ち込んできた女性にはじめて自分から「もう一度会ってくれないか?」と連絡する。だが「復縁って無理だから!」と拒絶され、生まれて初めての失恋を経験する。痛みを伴う失恋を、蒼乃シュウさんはどのように捉えているのか聞いてみた。 「私の意見ですが…なるべく若いときに大きな失恋を1~2回しておいた方が絶対にいいと思います。ちなみに私は大きいのが2回ありました!今では『あのとき振ってくれてありがとう!』と感謝しています。失恋したときは大きな悲しみが襲ってきますが、あとで振り返ると得るものも大きいんですよね。モテる人は一見幸せそうですが、失恋するチャンス(?)もないので、成長する機会も少ないのかも?という気がします。辛い失恋は、できれば誰でもしたくはないとは思いますが…。美輝の場合、一見クールなモテ男ですが、実は誰よりもロマンチストで、本当は運命の相手を探し求めています。ラストで経験した人生初めての失恋を機に、何かしらいい方向に変わってくれるのではないかと思います」 加恋が美輝に言う「パターンをやぶる」というメッセージも印象的だ。このメッセージに込めた思いも聞いてみた。 「『パターンを自分から破ってみる』って、恋愛に限らずどんな場合でも役に立つ方法だと思います。人間関係でも仕事でも、いつも同じような結果になる…と落ち込んでしまうことが誰にでもあるのではないでしょうか。『いつもこうなる』という場合、大抵無意識に自分からそのパターンを作り出したりしているものなので、『反応を変えてみる』とか『考え方を変えてみる』とか、『いつもと違う道を歩いてみる』とか。小さなことなのですが、案外それで道が開けたりするんじゃないでしょうか」 初めての失恋を経験したことで、「カッコ悪いオレもなんだか好きだってはじめて思えたんだ」という美輝。次はどんな訳アリ客が、加恋のもとにやって来るのだろうか。今後も楽しみにしてほしい。 取材・文=石川知京