『君に届け』椎名軽穂インタビュー!18年ぶりの新連載はオカルト×ラブコメディ『突風とビート』
心臓のビートを感じながら駆け抜けていく夏
──椎名さんが気に入っているシーンもぜひ教えてください。 第1話でニケがネモの家から帰るところを描いていたら、ニケが自然と跳んだんです。「ああ、きっとすごく楽しかったんだなあ」と思って、気に入っています。お互いに遠くから見ていた相手と、何かがはじまる感覚が生まれた瞬間。ネモの「見てられなくて見ちゃうのさ」というセリフも好きですね。 ──椎名さんの作品ではセリフやモノローグも心を揺さぶりますが、どのように書かれていますか? 思いついたときにメモ帳に書き留めたりもしますが、流れで出てくる場合もあります。執筆中のライブ感で出てきた言葉には、それまで思いつかなかったようなキャラクターの心情が出る場合があって、気に入ることが多いですね。 ──創作の過程でメモ帳にはかなり書き残されるのでしょうか。 私はメモ書きがすごく多いほうだと思います。ぐちゃぐちゃな断片がいっぱいあって、それをパズルのように組み合わせて話の筋を作ります。「この筋に持っていきたいけど、エピソードをどの順番で組んでいったらそうなるのかな?」というところでいつもすごく悩みますね。エピソードを前後させたらまったく話が変わるという経験も多々あり、特に物語のはじまりは組み立てにすごく時間がかかります。 ──『突風とビート』というタイトルにはどのような意味が込められているのでしょう? まずは鼓動のイメージです。BLANKEY JET CITYの「赤いタンバリン」やeastern youthの「時計台の鐘」の歌詞が好きで、心臓がドキドキしている音を色々考えたときにやっぱり「ビート」だなと。それとブワッっと勢いのあるものが欲しくて考えた結果「突風」になりました。 ──今を生きている疾走感がありますよね。 そうですね。それにときめきもあります。愉快に駆け抜けていきたいです。 ──まだ物語ははじまったばかりですが、今後の見どころを少しだけ教えてください。 夏のムードを楽しんでもらえるとうれしいです。『突風とビート』は夏をメインに、作中では約一年間のお話として描きたいと考えています。夏祭りとか神社とか、夏らしいものをたくさん描きたいです。 ──楽しみにしています。最後に、yoi読者の皆さんへメッセージをいただけますか。 20代から30代にかけては色んなことがあって忙しい時期ですよね。私自身、30代は『君に届け』を描いて、出産して、仕事も家庭のこともあって眠る時間を確保するのも大変でした。しかも女性は30代に2回も厄年がある(笑)。 仕事もプライベートも心身も変化が大きくて、多くの人にとってなかなかしんどい時期でもあると思います。だから、休めるときには休んで、時々でもゆったりお過ごしくださいね。『突風とビート』が人を癒せる作品かというと自信がないんですが…でも、もし気分転換にちょっと別の世界をのぞいてみたくなったら、読んでみてください。 漫画家 椎名軽穂 しいな・かるほ●1991年に『別冊マーガレット』(集英社)からデビュー。以降『CRAZY FOR YOU』(集英社)など多くの作品を発表、2006年から『君に届け』(集英社)を連載開始。高校生の不器用でひたむきな恋と友情が幅広い世代の共感を呼び、累計部数は3600万部を超える。同作はアニメ化、映画化、ドラマ化もされ、2024年8月よりNetflixにて「アニメ 君に届け 3RD SEASON」が配信開始。 マンガライター 横井周子 マンガについての執筆活動を行う。ソニーの電子書籍ストア「Reader Store」公式noteにてコラム「真夜中のデトックス読書」連載中。 ■公式サイトhttps://yokoishuko.tumblr.com/works 取材・文/横井周子 構成/国分美由紀
『突風とビート』 椎名軽穂 ¥572/集英社