欧州議会選挙2024、「極右」「EU懐疑派」大躍進の理由…EU市民は何を思って右派に票を投じたのか?
EUが壊れても、ヨーロッパは壊れない
さて、これらドイツの政治状況の変化が、今後、いかにEUの政治に反映されるかというと、残念ながらドイツの政治力は急激に弱まっており、良い意味でも悪い意味でも、あまり期待できない。 ただ、EUの運営は、各国が人口や経済規模に応じて拠出するお金で賄われており、ドイツの負担が一番多い。そうでなくても、現在、ドイツの税負担は世界で2番目に重いと言われ、しかも、国民の間では貧富の差が急速に広がっている。そんな中、多くのお金がEUに流れ、しかも影響力が低下するなら、ドイツ国民にとっては悲劇だ。 なお、EUのもう一つの問題は、EUの行政府(=内閣)である欧州委員会の存在。欧州委は、加盟国27ヵ国の27人の委員(=EUの各大臣に相当)で形成され、現在の委員長は、フォン・デア・ライエン(CDU・女性)だ。 欧州委のメンバーは国民の選挙を経ずに決まり、その委員長は、全加盟国の首脳が密室で決める。しかも理不尽なことに、欧州委員会の権限は、選挙の洗礼を受けた欧州議会よりも強く、また、密室で決められた委員長が絶大な権力を持つ。EUが民主的な組織ではないと言われる所以だ。 実は前回の19年の時も、委員長には違う人が就任すると思われていたが、蓋を開けてみたらフォン・デア・ライエン氏となった。そして5年後の今、氏の評判は壊滅的に悪いが、そんなことはお構いなしに、何が何でも委員長続投を狙っている。その氏が、自身に対する支持を取り付けるため、各国首脳とさまざまなディールを行っていることは想像に難くないが、極右と言われるイタリアのメローニ首相に接近している様子が報じられた時は、さすがに保守陣営の顰蹙を買った。 なお、今回の欧州議会選挙では、極右の台頭でEUが壊れ、さらにはヨーロッパの民主主義が危険に晒されるなどいう警告が盛んになされたが、選挙結果を見た限り、ヨーロッパの多くの住民はそんなことは思っていない。その反対で、彼らは民主主義を守るつもりで、右派に票を投じたのではないか。EUが壊れても、ヨーロッパは壊れない。 いずれにせよ、口先だけで民主主義を叫ぶ腐敗政治家には退場してほしいというのが、EU市民の本音だ。その筆頭が、欧州委員長のフォン・デア・ライエン氏や、ショルツ首相ではないかと疑っているドイツ国民はかなり多いと、私は見ている。
川口 マーン 惠美(作家)