2025年春闘賃上げと実質賃金の展望:実質賃金上昇と個人消費回復の鍵は円安の修正
2025年の春闘賃上げ率は2024年の水準を幾分下回るか
2025年に実質賃金が明確に上昇に転じ、個人消費の回復を支える情勢となるためには、春闘での賃上げ率が昨年の水準を大きく上回ることが必要だろう。しかし、その可能性は高くない。 連合は2025年春闘の賃上げ要求を「5%以上」とする方針を示している。これは2024年の要求と同水準であり、さらに高い賃上げを求める意欲は強くないのである。中小企業の労働組合に関しては「6%以上」の要求とし、格差是正に重点を移す戦略だ。これを受けて、2025年の春闘での賃上げ率は昨年の+5.1%(連合ベース、定期昇給分を含む)と同水準かそれを幾分下回るとの見通しが多くなっている。つまり、高い賃金上昇率は続くが、2024年のような加速感はなくなるのである。
円安一巡が実質賃金上昇と個人消費回復の鍵に
物価上昇に賃金上昇が追い付かず、実質賃金の水準は大きく下振れた状態が続いている点を踏まえると、労働者側の賃上げの姿勢はむしろ消極的であるようにも見える。その背景には、2024年に予想外の高い賃上げ率を獲得したことで、一定の達成感が生じていること、そして、トランプ政権誕生により2025年の経済環境には不確実性が高まっていることがあるだろう。 賃金上昇率がさらに高まらない場合に、実質賃金を上昇させ、個人消費の回復を促すためには、物価上昇率が低下していくことが必要となる。政府は、消費者物価上昇率は、2024年度の+2.5%から2025年度には+2.0%へと低下すると予想している。しかし、2025年の消費者物価上昇率はより上振れる可能性がある。物価上昇率の低下を阻んでいるのは、長期化する円安の影響だ。この点から、円安の流れに歯止めをかけ、緩やかな円高の状況を作り出すことが、2025年の実質賃金を明確に上昇させ、個人消費の回復を助けることにつながるだろう。
期待される日本銀行の金融政策正常化
日本銀行は、春闘での高い賃上げを理由の一つにして、昨年3月にマイナス金利政策の解除に踏み切った。足もとでは実質賃金の回復は遅れ、個人消費の低迷も続いている。こうした経済環境は、日本銀行の利上げを慎重にさせる要因だ。 しかし、実質賃金の上昇と個人消費の回復の鍵を握るのが円安修正であるならば、日本銀行にはそれに資する金融政策の正常化を着実に進めていくことを期待したい。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi)に掲載されたものです。
木内 登英