司法取引5年でたった3件、期待された「捜査の武器」はえん罪リスクで活用後退
他人の犯罪捜査への協力と引き換えに、刑事処分などを軽くしてもらう司法取引。海外のサスペンス映画に登場しそうな制度が、日本でも2018年に導入され、今年6月で5年が経過した。新たな「捜査の武器」と期待されたものの、適用が明らかになったのは日産自動車元会長カルロス・ゴーン被告(69)が逮捕された事件など3件だけだ。運用が広まらない背景には、取引した人が虚偽の供述をして無実の人をおとしめる冤罪のリスクがあるため検察当局が運用に慎重なことに加え、裁判所が司法取引で得た証言について厳しい見方を示していることがある。今後制度はどうなっていくのか。事件当事者や、制度の創設に携わった元検事総長の林真琴弁護士らを取材した。(共同通信=帯向琢磨、岩田朋宏) ▽証拠改ざん発覚で脱・供述依存 制度導入のきっかけをおさらいすると、2010年にまでさかのぼる。大阪地検特捜部の証拠改ざんが発覚し、その原因には、供述への過度な依存があったと指摘された。
その後、検討会や審議会での議論を経て、司法取引はそれまでの取り調べ偏重から脱却するための手段として改正刑事訴訟法に盛り込まれ、2016年に成立した。 対象は財政経済事件と薬物銃器犯罪に限られる。容疑者や被告が、共犯者ら他人の犯罪を解明するために取り調べや公判で供述などをすれば、検察は起訴を見送ったり求刑を軽くしたりできる。虚偽供述のリスクには、罰則を新設して対応することにした。 ▽1カ月で初適用 初適用は、制度が始まってからわずか約1カ月後だった。2018年7月、タイの発電所建設に絡む贈賄事件で、東京地検特捜部と法人としての「三菱日立パワーシステムズ」(現三菱パワー)との間で結ばれた司法取引を元に、三菱日立パワーシステムズの元取締役ら3人が在宅起訴された。 当時の検察幹部は「海外案件で証拠収集が難しかったが、会社から協力を得られたことで証拠が集まった」と意義を強調していたが、この構図は事件当時から議論を呼び、「会社による個人の切り捨てだ」との批判も噴出した。