ラストシーンが示す宿命とは? 『ゴットファーザー』を彷彿とさせる結末を解説。映画『クレイヴン・ザ・ハンター』考察レビュー
ソニー・ピクチャーズが放つマーベル最新作『クレイヴン・ザ・ハンター』が現在公開中だ。原作では、スパイダーマンの宿敵として描かれ、ヴェノムに匹敵する強さを誇るクレイヴン。今回は、彼がいかにしてその力を得て、悪名高いハンターになったのかを描く本作の魅力をたっぷりとお届けする。(文・島晃一)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】 【写真】超人的なパワーがかっこいい貴重な未公開カットはこちら。映画『クレイヴン・ザ・ハンター』劇中カット一覧
“マフィア映画”要素を取り入れた挑戦的なストーリー
ソニー・ピクチャーズによる新たなマーベル映画『クレイヴン・ザ・ハンター』は、「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」(SSU)の6作目にあたる。SSUはスパイダーマンに関連するキャラクターのスピンオフ・シリーズで、原作では、クレイヴン・ザ・ハンターはスパイダーマンの宿敵として描かれていた。 監督には『マージン・コール』(2011)などで高い評価を得るJ・C・チャンダー。主人公のセルゲイ/クレイヴン・ザ・ハンターを演じるのはアーロン・テイラー=ジョンソン、弟のディミトリ役に『グラディエーター II英雄を呼ぶ声』(2024)も記憶に新しいフレッド・ヘッキンジャー、父親のニコライ役には名優ラッセル・クロウ、さらには『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)でアカデミー助演女優賞を受賞したアリアナ・デボーズがヒロインのカリプソを演じた。 実力派揃いの布陣で挑んだ『クレイヴン・ザ・ハンター』だったが、なんと公開前にSSUの終了が報じられ、本作で最後になる可能性が出てきた。その影響があったかもしれないが、初週末の興行収入はソニーのマーベル映画で最低を記録。また、批評集積サイトなどでも酷評が相次いだ。 こうした結果をもって、本作を失敗と断ずるのは容易だ。しかし、本作は、マフィア映画の要素を取り入れ、父との対立を通じてヒーロー誕生の物語を作るなど、これまでのマーベル映画にはあまり見られなかった意欲的な部分も際立っている。
マフィア抗争と心理的葛藤の融合
父のニコライは、ロシアン・マフィアを牛耳る非常に冷酷かつ強権的な人物で、力こそすべてとし、男らしさを過剰に押し付ける。母は精神を病んで亡くなったが、父はそれを気にも留めず、狩りのために子供達をアフリカに連れ出す。 セルゲイは、狩りの目標であった伝説のライオンに遭遇するも撃つのをためらい、重傷を負ってしまう。そこに現れたカリプソの秘薬と流れ込んだライオンの血によって、セルゲイは復活し、特別な能力に目覚める。その後、彼は父の後継者になることを拒否し家を出て、密猟者や悪党を狩るハンターとして生きることに。その一方で、クレイヴンが犯罪界の大物を始末したことで、その利権をめぐって、ニコライはアレクセイ(アレッサンドロ・ニヴォラ)と対立。さまざまな人を巻き込む抗争が繰り広げられる...。 この映画では、クレイヴンたちによるバイオレンスなアクションが繰り広げられるが、それ以上に目立つのが、ラッセル・クロウ演じるニコライと親子の葛藤だ。『クレイヴン・ザ・ハンター』は、マフィアの抗争を背景にしたヒーロー映画でありながら、登場人物たちが強権的なニコライの存在に苦悩し乗り越えようとする、エディプス・コンプレックス的な心理的葛藤を描いた物語でもある。