『映画「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」』天海祐希&上白石萌音が見つめ直したダークな感情との向き合い方「もう悩まない。でも、若いうちはいっぱい悩んだほうがいい」
世界累計発行部数1100万部を突破する廣嶋玲子・作、jyajya・絵による児童小説を、中田秀夫監督が実写化した『映画「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」』(公開中)。幸運な人だけがたどり着くことができる駄菓子屋「銭天堂」を舞台に、そこで売られる“ふしぎな駄菓子”とそれを購入した人々の顛末を描きだす。 【画像を見る】「人と比べても自分とは違うんだから」ダークな感情との向き合い方について語った天海と上白石 本作で、主人公となる銭天堂の女店主、紅子役を、大掛かりな特殊メイクで演じた天海祐希と、紅子を敵視する謎の駄菓子屋、たたりめ堂の女主人、よどみ役に挑んだ上白石萌音に、“ダークな感情”との向き合い方や、対峙したからこその心境について、存分に語り合ってもらった。 ■「『ちゃんと渡り合わなければ!』と思うとプレッシャーでした」(上白石) ――本作のクライマックスとも言える紅子さんとよどみの対決シーン、迫力満点でした!今回、上白石さんにとっては初の本格的な悪役であり、かつ、天海さんと敵対する役どころということで、「ぜひともやってみたい!」と思われたとか。 上白石「『「銭天堂」の映画のオファーが…』と言われて企画書をめくったら、天海さんのお名前が真っ先に飛び込んできて。即座に『やります!』と(笑)。私は天海さんとご一緒するのをずっと目標にしていたので」 天海「そんな、そんな。とんでもないことですよ!」 上白石「でも、ライバル役なので『ちゃんと渡り合わなければ!』と思うとプレッシャーでした」 天海「いや、すごく堂々とされていましたよ!」 ――実は、対決シーンの直前、中田監督のヘッドフォンには、「トクトクトクトク…」という上白石さんの“心音”が聞こえていたそうで…。 上白石「えっ!?」 ――「(心音は)しっかりと天海さんと渡り合っていた萌音さんの真っ当な緊張からで、さすがと感銘を覚えた」と、中田監督がXでつぶやかれていたのを拝見しました。 上白石「うわぁ、マイクで拾われてたんだ~。あの時、本当に心臓がバクバクしていました!」 天海「そうだよね…。私、大っきいから。怖いもんね…(笑)。でもさ、私の側からすると、きっと萌音ちゃんはすごく楽しみながらよどみを演じていらっしゃるんだろうなと思いながら見てましたよ。いつも可憐で、ひたむきで、一生懸命な女の子を演じられることが多いから」 上白石「はい。その分だけ溜まっていたうっ憤を、思い切り晴らすチャンスだと(笑)」 天海「内に秘めたる邪悪な部分をね(笑)。いや、ウソウソ。自分自身の中に普段あまりない感情だからこそ、むしろ徹底的に作り込めるおもしろさもあるんじゃない?」 上白石「とても楽しかったです!」 天海「萌音ちゃんは、感情の赴くままにワ~っとやるだけじゃなく、ご自分が思う“よどみ像”というものに向かって、しっかり緻密に計算された上で、コントロールしながら体現されている。それって、実はものすごく大変なことだと私は思うんですよ。でも、萌音ちゃんはそこをちゃんとコツコツやってらっしゃる。それが本当にすごいなと思っていて」 上白石「うわぁ、うれしいです。(この記事がアップされたら)スクショして大事に読み返します(笑)」 ■「“悩まないようにしている”というよりは、そもそも“悩むことがない”」(天海) ――過去のインタビューによれば、上白石さんの中には意外とダークな感情も“ある”と…。 上白石「あります、あります(笑)!」 天海「そりゃあ、誰にだって多少はありますよ」 ――上白石さんはあらゆる感情を掘り下げて、お芝居に昇華させることが多いそうですね。 上白石「そうです。だから今回は、やっとダークな部分を使える時が来たな…!と(笑)」 天海「なるほどね~(笑)」 ――天海さんは積極的に悩まないようにされているイメージがあるのですが。 天海「“悩まないようにしている”というよりは、そもそも“悩むことがない”かな。もちろん、お芝居や仕事に関しては悩んだり考えたりすることはあるけど、それ以外のことについては、私はあんまり悩まない」 上白石「それって、昔からですか?」 天海「いや、若いころは選択肢がいっぱいあるから、『どっちのほうがいいかな?』『あれもできそうだな』『これもやりたい』って悩むこともあった。でも、だんだん年齢が上がるにしたがって、『自分にはもう必要ないもの』『できそうにもないこと』『もうやらないこと』がどんどん手のひらからこぼれ落ちていくから、あとは残ったもののなかから選べばいいだけ」 上白石「あぁ、なるほど…」 天海「だから、もう悩まないなぁ。でも、若いうちはいっぱい悩んだほうがいいよ。可能性がいっぱいあるんだから」 上白石「いまはこのままでもいいんだ…。悩んだ先にいつか私にもそんな境地が開けるかと思うと楽しみです」 天海「いいよ~。気がラクになるよ~」 ――そうは言っても、ふとした瞬間、魔が差すというか。この映画のなかに出てくるような、誰かを羨んだり妬むような “負の感情”に押しつぶされそうになることはないですか? 天海「それこそ昔は、『いいな~』とか、『なんで私はあの役をやらせてもらえなかったんだろう…?』みたいに、誰かを羨んだことが私にもあった。でも、いまはもう『わぁ~すごいな~』『すてきだな』って思いながら見てる」 ■「天海さんは困ったり悩んだりしている人にスッと手を差し伸べてくださる方」(上白石) ――それは、ちゃんと実績を重ねてきたからこその、“揺るぎない自信”があるから?それとも、自分以外の人と比べても仕方がないと思えるからでしょうか。 天海「そう。人と比べても、自分とは持ち味が違うんだから。もちろん、『持ち味が違うから』というひと言で済ませてしまうのも、あまりよくないなとは思うんだけど。冷静になって、『自分だったらできたかな…?』『いや…。きっと私には難しかっただろうな』って考えてみると、純粋に『すごいな~』っていう気持ちが湧いてくる」 上白石「それこそ天海さんって、紅子さんじゃないですけど、現場で困ったり悩んだりしている人に、スッと手を差し伸べてくださる方なんです。ある時、現場で天海さんとお話をしていたら、急に天海さんが後ろを振り返って『危ない!』と声を上げたことがあって。見たら、まさに後ろのスタッフさんが転びそうになっていて。私、『天海さんって後頭部にも目がおありなんだ』と思って、本当にビックリしたんですよ!」 ――驚異的な視野の広さをお持ちだと。やはり、主演として立つからには、「必要な人に、必要な時だけ手を差し伸べてあげたい」といった想いが、天海さんのなかにもありますか? 天海「そうですねぇ。これは別に中田監督がということではなくて。世の中には自分が思っていることを伝えるのが上手な監督もいらっしゃれば、あまり得意じゃない監督もいらっしゃって。監督が言っていること自体はものすごくよくわかるんだけど、それを演じる人間として受け止めた時に、『こういうことができなくて、こういうことが起こってしまうんです』ってことを、上手く伝えられない役者さんもいたりする。そういう時は、『監督が言ってるのはこういうことで、あなたが悩んでることはこういうことだよね?』って、私が交通整理を担当することはありますね。お互いの事情や理由をちゃんと伝え合った上で、それぞれが正解を見つけていかれたらいいと私は思うし。物作りをする上で、とても大事なことだと思うから」 ■「ある意味、紅子さんはとても人を信じている気がするんです」(天海) ――中田監督も、紅子さんを天海さんにお願いしたのは、「子どもたちをはじめ、願いを叶えてくれる駄菓子を買うお客さまたちの行く末をしっかり見届ける“人生のレフェリー”役に、凛として芯のある天海さんこそがピッタリだと思ったからだ」とおっしゃっていました。 天海「紅子さんって、お客さまが必要な時に、必要な駄菓子を選んで、それを売る。でも、そのあと、お客さま本人がどんな道を選択するかということには、紅子さんは一切干渉しない。最終的に、望みどおりにならなかったとしても、『あらあらまた“不幸虫”ができちゃったわね~。あのお客さまはこっちに行かなかったか…』って、あくまでもサラッと言うだけで、よどみちゃんみたいに『なんでそうならないんだよ!』って引きずらない。ある意味、紅子さんは、とても人を信じている気がするんです。ちゃんとそれだけの経験を積んできたからこそ、執着せずにいられるんじゃないかな。そこがよどみちゃんとの差なんだと思うんです」 上白石「よどみは、まだ人に対して“ウェットでピュアな期待”を持っているんですよね」 天海「そうそう。紅子さんは達観してる。だからこそ、人の生き様を見るのが好きなんだと思う。もちろん、紅子さんのなかにも『このチャンスをものにしてほしい』という気持ちはあるんでしょうけど、あくまで本人の選択を尊重して、人間の強さも弱さもすべてひっくるめて、俯瞰で見ている感じがするな。決して相手に押し付けたりせず、自分の意思で選ばせて、最終的にどちらに転んだとしても、『これが、あなたが選んだ、あなたの人生だから…』って。きっと、紅子さんみたいな人のことを“優しい人”って言うんだろうなと思いながら、私は演じていた気がしますね」 ――なるほど。紅子さんがどういう人生を歩んできたかについても、想像が膨らみますね。 上白石「よどみはたたりめ堂のカウンターを挟んでお客さんに自分のほうから仕掛けていって、思いどおりに相手を動かすことに、喜びを感じているんです。でもお店に紅子さんが来た時、そこで初めてよどみがちょっと“食らう”んですよ。私のなかでもあのシーンの撮影を通して、初めて掴めたよどみの気持ちもありました。紅子さんを演じる天海さんの視線一つ、言葉の渡し方一つで、台本上だけでは想像もつかなかったような流れが、そこで一気に巻き起こったりするんです。あのシーンは、私にとって本当に今後の宝だなと思います」 天海「よどみちゃんは自分の持っている負のものをお客さんにバンバンぶつけて、『それを倍にして返してこい!』ってけしかけるタイプの子なんだけど、もしかすると紅子さんもそういう時期があって、いまの紅子さんの境地に至っているのかもしれないと思ったりもする。もちろんすべてではないにせよ、よどみちゃんの性格についてもちゃんとわかった上で、紅子さんは、わざと吹っかけたり、押したり引いたりしているんだと思うんです」 上白石「よどみの挑発に乗ってこない唯一の相手が紅子さんで。それが悔しいんですよね」 天海「そうそう! 逆に紅子さんのほうがよどみちゃんに、来いよ!って挑発し返すんだよね。人間相手なら、恐怖を与えて、負の感情をさらに増幅させることができたのに、紅子さんがお店に来た途端、よどみちゃんの前にドーンって大きな壁が立ちはだかったんだと思うな」 ■「『ピュアな私の願いってなんだろう?』ってすごく考えさせられたんです」(上白石) ――大人も思わず自分の胸に手を当て我が身を振り返ってしまうような苦い教訓が描かれている物語でもありますが、お2人は、よどみにたたりめ堂に招かれたらどうします? 上白石「私はビビりだから、あの路地の途中で足がすくんで引き返していると思います(笑)」 天海「たたりめ堂にしても、銭天堂にしても、みんな“いまこの瞬間の願い”を叶えたくて行くじゃないですか。でも、大人になった私たちが願うことって、もっと長期戦なんですよ。時間をかけて最終的にたどり着ければいいなと思っているから、その場しのぎのことには手を出さないかもしれない」 上白石「銭天堂で紅子さんから『なにがほしいの?』って訊かれた時に『私だったら、紅子さんに、自分の願いのどの部分をどう抽出して、どんな言葉で伝えて、どんなふうに協力を求めるだろうか…。計算や打算抜きの、ピュアな私の願いってなんだろう?』って、映画を観ながらすごく考えさせられたんです。どんな言葉で伝えて、どう周りの人たちと一緒に頑張っていったらいいか。そのすごくピュアな答えの一つが、この映画のなかにはあるような気が私はしています」 天海「子どもさんは『テストでいい点がとりたい』『モノマネがうまくなりたい』って、自分の欲望をまっすぐ伝えることができるけど、大人は絶対ちょっとかっこつけるじゃないですか。『私としては、別にこんな駄菓子に頼らなくてもいいと思っているんだけど…。たまには、こういう駄菓子も必要かなと思って…』みたいに、つい前置きしたくなるじゃない?」 上白石「私もそう言っちゃいそう…(笑)」 天海「でしょ?でも日ごろから本当に自分が望んでいることはストレートに口に出して、目標を明確にしておくのも大事だったりするのかも。それで、いざチャンスが訪れたら、よこしまな気持ちを失くして必死に頑張ることが、自分の望みを叶える近道なのかもしれない」 上白石「確かに。いつ銭天堂にたどり着いてもいいように…(笑)」 天海「前置きナシで、大人もズバッと言えるようにしておくのが、大事なんでしょうね(笑)」 取材・文/渡邊玲子