横田早紀江さんが明かす、孫娘ウンギョンさんとの「奇跡の対面」の舞台裏 「和やか」が一変、緊迫のやりとり…めぐみちゃんの「命の証し」かみしめたが、拉致知らせない「閉鎖国家」実感も
▽母の死を信じる娘ウンギョンさんに、娘めぐみさんの生存信じる母早紀江さん しかし、和やかな雰囲気が一変した時もあった。 ウンギョンさん一家とテーブルを囲んで歓談している際、この信念は伝えなければと考え、私は意を決して話した。 「おばあちゃんは、めぐみちゃんが生きていると信じていますからね。その気持ちは信じてね」。娘の他にも拉致被害者がいる事実も併せて伝えた。 すると、穏やかだったウンギョンさんの顔は急にこわばり、反論した。「母はもう亡くなっている。父からも政府からもそう聞いている。日本の悪い人たちが生きていると言っているだけです」 ウンギョンさんは、拉致問題の状況を何も知らなかったようで厳しい表情になり、お父さんとウンギョンさんのご主人は押し黙ってしまった。北朝鮮と日本の両政府から派遣された通訳を兼ねた同行者も皆うつむく。気まずい雰囲気になったため、「少し強く言いすぎたかな」と思い直し、その日はもう、めぐみちゃんの話題に触れることはしなかった。
滞在中はウンギョンさんの手づくりの和食や朝鮮料理に舌鼓を打った。肉のステーキに鳥を煮込んだスープ、ほうれん草のあえ物…。その味が忘れられない。故郷の京都風と同じ薄味でとてもおいしかった。 ▽他の拉致被害者の心中思うと… 極秘の渡航だった。事前に外部に漏れれば、対面はご破算になる。他の被害者家族の心情を思うと胸が痛んだ。でもこの機会を逃せば一生会えないかもしれない―。葛藤はずっと消えない。お父さんはこの時81歳。私は78歳。体力的にもぎりぎりだった。 「モンゴルでウンギョンさん一家と面会できるようになりました」。そう政府から知らされたのは、2014年に入ってからで、出発の少し前だったと記憶している。ウンギョンさんには革のバッグを、旦那さんにはスーツの仕立て用生地をお土産に用意した。 さすがに長男拓也(55)には出発前日の夜に事情を説明した。同じマンションの別室を訪ね、モンゴルでウンギョンさん一家と会うことを伝えた。すると「えー」とびっくりしながら、強い口調で「そんなことしていいのか」とモンゴル行きを止められた。当然の反応だと思ったが、「何とか頑張って行ってくるから」とだけ告げて自宅に戻った。