【マレーシア】国境の街、マ人観光客に沸く タイ南部の経済環境をみる(上)
マレーシアとの国境にほど近い、タイ南部の中心都市ハジャイ(ソンクラー県)。この街の観光業を支えるのは、陸路で買い物や食事に訪れるマレーシア人観光客だ。マレーシアの祝祭シーズンや長期休暇に合わせ、国境検問所には出入国の長い列ができる。ハジャイの何がマレーシア人観光客を引きつけているのか。実際に街を歩いて確かめてみた。【降旗愛子、Nuttanun Kaewkam】 タイの南部地方はソンクラー県をはじめ、14県で構成される。国際的なリゾート地として知られるプーケット島や欧米人に好まれるサムイ島とは対照的に、ハジャイのあるソンクラー県の観光業はマレーシア人観光客が支えている。タイ政府観光庁によると、今年9月時点でソンクラー県を訪れた外国人観光客280万人のうち、マレーシア人が200万人を占めた。 人気の理由は第一に、国境に近いというアクセスの良さだ。ハジャイをはじめソンクラー県を訪れるマレーシア人の多くは自家用車、もしくはマレー鉄道とタイ国鉄を利用し、陸路で入国する。 マレー鉄道の終着駅パダン・ブサル駅や、自家用車での出入国路となるサダオの国境検問所からは1時間以内。陸路による入国者は全体の60%に上り、訪問者の65%は個人旅行(FIT)だ。 マレーシアの首都クアラルンプールに駐在経験もあるタイ政府観光庁ハジャイ事務所のノンヤオ・ジルンドン所長によると、マレーシアの長期休暇時期は、サダオの検問所に長蛇の列ができ、通過に3時間近くかかることもあるという。また、クアラルンプール発着のタイ南部行き観光列車「マイ・サワディー」は、チケットの入手困難な人気列車として知られている。 こうしたマレーシア人のタイ観光熱は昨今マレーシアの地元紙でもたびたび取り上げられ、中には、マレーシア北部の国際的なリゾート地ランカウイ島と比較して論じられることも多い。 ■「一番近い外国」は買い物天国 ハジャイの街中を歩くと、マレーシアとの国境に近いことから両国の文化的親和性を強く感じる。華人系の商店には漢字の看板が掲げられ、華語を話す従業員も多い。一方、イスラム教徒(ムスリム)の従業員はマレー語を話し、マレー語の看板や、イスラム教の戒律に従っていることを示すハラル認証のロゴもそこかしこに掲げられている。マレーシア人にとって、まさに「一番近い外国」といった趣だ。 タイ政府観光庁のデータでは、マレーシア人観光客の平均的な滞在期間は約3日間で 、食事や買い物、宿泊に1人当たり平均4,050バーツ(約1万8,200円)を支出するという。 市内中心部のキムヨン市場を訪れていたマレーシア人ムスリムの女性観光客は、自家用車を利用し、2泊3日の日程で家族と共にタイ国境のクランタン州から訪れた。訪問の目的は買い物と食事で、「クランタン州と比べてなんでも安いし、質も高い」と話した。 市場での買い物客を観察すると、ナッツ類や乾物、衣類など軽量だがかさばるものを購入する人が目立つ。持ち込み荷物に制限のない陸路での訪問ならではだろう。 ただ、市場の乾物店からは「新型コロナウイルス流行前のにぎわいは取り戻せていない」「オンライン販売の増加や景気低迷で、店頭での購入額は減少している」との声も聞かれた。 一方、コロナ禍を機にQR決済の普及が進んだ。タイ中央銀行 (BOT)によると、タイは現在、マレーシアなど近隣8カ国と越境QR決済を導入している。キムヨン市場の商店や道ばたの屋台でも、タイの「プロンプトペイ」のQRコードをかざせば、マレーシアで圧倒的シェアを誇る「タッチンゴーeウォレット(タッチンゴー、TnG)」でシームレスに決済ができる。海外利用手数料が課されるものの、残高が少なくなれば普段利用しているのと同じように、オンラインバンキングを通じてチャージするだけだ。わずらわしい両替の手間もなく、観光客の消費を後押ししていくと期待されている。 ■観光年に向け相互交流後押し マレーシア観光局によると、今年1~9月にタイを訪れたマレーシア人観光客は370万人に上るのに対し、マレーシアを訪れたタイ人観光客は110万人と大きな開きがある。2026年のマレーシア観光年「ビジット・マレーシア・イヤー(VMY)」を前に、マレーシア政府はタイからの観光誘致促進を目指す。 その目玉の一つが、両国に乗り入れる国際列車の拡充だ。タイ国鉄は8月、タイの首都バンコクとマレーシアのペナン州バタワースを結ぶ直通列車の運行を再開すると発表した。マレーシアのマレー鉄道公社(KTMB)と協力して運行する。バタワースは観光で人気のペナン島への玄関口となる。