「ブータンの宝」ナメコを日本へ 福島の専門家が原木栽培を現地指導
ヒマラヤ山脈の南にあるブータンで、福島県から赴任したキノコ栽培の専門家の男性による技術指導でナメコの原木栽培が軌道に乗り始めている。男性は「風評被害に苦しむ福島の技術でブータンのキノコを世界へ」と意気込んでいる。 11月上旬、首都ティンプーの中心広場で開かれた「ジャパン・ウイーク」の会場では、両国に関わるさまざまな活動が紹介されていた。その一つが、現地で日本型のキノコ栽培を普及させる国連食糧農業機関(FAO)のプロジェクトだ。中心となっているのは熊田淳さん(65)。福島県林業研究センターの元職員で、2022年から国際協力機構(JICA)の協力隊員としてブータン国立キノコセンターに所属し、現地の農家を指導している。 熊田さんによると、山国ブータンは地質や植生など日本と共通点も多く、日本で見られるような多種多様なキノコが自生する。しかし、伝統的に食べられてきたのはシイタケやアンズタケなど一部に限られる。今は日本へ輸出されているマツタケも食用とされていなかった。「キノコ関係者からするとポルチーニ、クロカワなど野生キノコの宝の山なのに、地元の人は宝の価値に気が付いていません」という。ナメコもその一つだった。 日本では23年に約2万3000トン(農林水産省統計)のナメコが生産された。そのうち99・7%が空調管理された施設内で菌床栽培されているという。福島県はナメコの菌床栽培発祥の地ともいわれ、原木も合わせ国内有数の産地。特に会津地方は原木栽培ナメコが有名だが、11年の東京電力福島第1原発の事故に伴うキノコ類の出荷制限や風評被害により、大きな打撃を受けている。 熊田さんはブータンで、野生ナメコから選んだ品種を用い、3軒の農家グループを指導しながら原木を使った現地適応化を試した。雪に覆われる会津と違い、ブータンは冬に乾燥する。しかし、原木栽培の一種で、覆土する短木栽培法であれば湿気が保たれ、栽培可能なことが確認できた。 産品はすでに地元の五つ星ホテルでもスープの材料として使われているという。ジャパン・ウイーク会場でもナメコ料理の試食は好評だった。この冬から生産を本格化させる予定だ。 熊田さんは、将来は育成農家をさらに広げ、まずは国内市場向けに出荷する狙いだ。しかし人口が79万人と、市場は小さい。原木栽培という希少性を生かし、インド、バングラデシュなど近隣国や日本へも輸出できるまでに育てたいという。 「大震災の後、福島はブータンから温かい支援をいただきました。せめてもの恩返しです。キノコを生かして、親日国として知られるブータンと日本の縁をさらに育てていきたい」と話している。【ティンプーで森忠彦】