【阪神】藤川球児「僕の負けです」 抑えても失投猛省…監督業につながる勝負師の顔と切り替え
【取材の裏側 現場ノート】阪神・藤川球児監督(44)が現役選手として劇的な復活を遂げた2019年シーズンは、自身が虎番の着任1年目だったこともあり、個人的に思い入れがある1年だ。39歳を迎えていた虎の背番号22はこの年、56試合に救援登板。4勝1敗、23ホールド、16セーブ、防御率1・77と年齢を感じさせない圧倒的な成績をマークした。 特に印象深かったのは、6月21日に行われた西武戦(甲子園)だ。4―3と1点リードの8回にセットアッパーしてマウンドに上がった藤川は、当時12球団屈指の破壊力を誇っていた「山賊打線」の中軸と対峙。先頭打者・山川(現ソフトバンク)に全球直球勝負を仕掛けてまずは空振り三振。次打者・森(現オリックス)にはフルカウントまで粘られて四球で歩かせたが、続く中村剛と木村をそれぞれ空振り三振、遊直に打ち取って3アウトチェンジ。全盛期を思わせるパワフルなピッチングに甲子園の虎党は大いに酔いしれた。 試合はそのまま阪神がリードを保ったまま勝利。試合終了後の球場裏取材で「球児さん、今日は圧巻の投球でしたね」と声をかけたが、当の藤川本人は冷静そのものだった。「いや、今日は僕の負けなんで。僕、打たれたんで」。(何言うてんのこの人? 抑えましたやん、勝ちましたやん…)。私がキョトンとしていると、隣にいた利発な記者が「中村への2球目のフォークのことですか?」と合いの手をすぐさま入れる。 「そう、その球です。あれはホームランボールでした。僕の負けです」 プレスルームに戻ってからモニターで確認したが、一死一塁、カウント0―1から中村剛に投じた2球目のフォークが抜け、ど真ん中に入っていた。山賊打線の大ボスはこの1球を仕留め切れずにファウル。痛打を浴びてスタンドへ運ばれていれば、試合は4―5と引っ繰り返されているところだ。「試合に勝って、勝負に負けた」。これが藤川の偽らざる本音だった。 私はこの一幕をバックネット裏の記者席から生で見ていたため、細かいコースを正確に把握できていなかった。だからといって取材者として言い訳にはならないだろう。勝敗や結果に捉われず、その日の登板を冷静に振り返るベテラン投手と未熟な新米虎番。そのコントラストは何度思い出しても恥ずかしい。「まあまあ、一喜一憂せずにね。また明日も試合はあるわけだから」。そう言い残して球場を去っていった彼の背中は今も目に焼き付いている。 「一喜一憂しない」。常に白刃の下をくぐってきた百戦錬磨の勝負師が口にしてこそ、その言葉には重みがある。そしてそのマインドはクローザー以上の荒行である虎指揮官に挑むことになった今も変わらないのだろう。新生・藤川虎はどのような戦いをわれわれに見せてくれるのか? 新シーズンの到来が今から待ち遠しい。 (阪神担当・雨宮弘昌)
雨宮弘昌