知られざるフェルトの製品哲学|FELT FR/VR/ブリード試乗記(前編)
「テキストリーム廃止」からフェルトの製品哲学を邪推する
フェルトは2代目Fシリーズのときから、素材にテキストリームカーボンを使っているとさかんに喧伝していた。テキストリームカーボンとはスウェーデンのオゼオン社が製造する特殊なカーボンシート。通常の炭素繊維の束を薄く広げて伸ばして(開繊という)、テープ状にしたものだ。うどんに対するきしめんである。 通常の炭素繊維の束は丸に近い断面で、これをそのまま織物(クロス)にすると屈曲が大きくなり、繊維と繊維の隙間も大きくなる(CFRPの樹脂率を下げることができない)。しかし平べったい開繊糸なら、クロスにしたときの繊維の屈曲度合いが小さくなり、隙間が少なくなるため樹脂率を下げることができ、炭素繊維の物性を発揮させやすくなる。また、同じ強度・剛性ならプリプレグを薄くできる。 しかし筆者は、その効果にずっと疑問を抱いてきた。 今さらだが、カーボンシートには、繊維が一方向に並べられたUD(ユニディレクショナル)と、クロス(繊維を縦横に織った織物)がある。“カーボン”という言葉から想像するのは表面にチェック柄が現われるクロスだが、実際にCFRP製品に用いられるのはUDが多い。自転車のカーボンフレームもしかり。一部の特殊な例を除き、材料の大半はUDだ。 その理由は、UDのほうが炭素繊維の性能を引き出しやすいため。UDは繊維が真っ直ぐのままなので、炭素繊維本来の強度や弾性率を発揮できるが、織物であるクロスは繊維が曲がってしまうので、強度や弾性率が落ちる。また、クロス繊維の方向が0度と90度に限定されてしまうが、UDであれば30度だろうが45度だろうが積層角度は自由自在。カーボンと聞いて我々が想像しがちなクロスは、実は炭素繊維にとっては不利な状態なのである。 UDには、亀裂が入ったときに割れ目が広がりやすいというデメリットがあり(クロスであれば亀裂が一マスしか進まない)、それが故に亀裂対策としてクロスをカーボンフレームの最外層に使うことがある。同様の理由でボルト台座やケーブル挿入口など、穴あけ加工をする周辺にもクロスが用いられる。また、織物にすると柔軟性が出るため、レイアップが難しい複雑な形状の場所にも使われる。 フェルトはテキストリームを使うメリットを「繊維の屈曲が最小限になるため、クロスでありながら弾性率の高い繊維を使用できる」と説明していた。主にBB周辺などの複雑な場所や、フレーム最外層に使用しているという。「少量しか使わないクロスでもできるだけ剛性を出す」という意図なのだ。 しかし、カーボンフレームの大半がUDであることに変わりはない。ごく一部のクロスをテキストリームにしただけで、どれほどの実効果があるのだろうか。かかるコスト(繊維を広げる工程が加わるため、テキストリームの製造コストは普通のプリプレグの数倍)に見合うだけの効果があるのだろうか。 そう思っていたから、新型FRがテキストリームをやめたと聞いて納得した。 しかし、必要ないと考えたらスパッと廃止する。「ダブルダイヤモンドデザイン」にしろ、真円シートポストにしろ、飾り気のない実直なフレーム形状にしろ、このテキストリームカーボン廃止にしろ、新型FRは非常に理性的な設計が施されていると感じる。