深澤辰哉に出会ってしまった衝撃…。ドラマ『わたしの宝物』の冬月役が今までにないハマり役になったワケ。解説レビュー
決定的な役柄と出会ってしまった深澤辰哉
渡辺翔太を制すれば、相対的に深澤辰哉の魅力と不思議な色っぽさの秘密も自ずと解明できそうな気もする。 渡辺に影響されてか、むしろ彼以上に連発、乱発する「うわっ」については『週刊ナイナイミュージック』(フジテレビ系)10月30日放送回で取り上げられていたが、同番組2月7日放送回に深澤の絶対的魅力を事実として裏付けるコーナーがある。それは、Snow Manメンバーが「人生で最高にもらったチョコの数」を競うランキング企画である。 この企画で堂々の1位に輝いたのが深澤だった。他メンバーはちゃんと個数を示しているのに(渡辺は4個で7位)、深澤の個数は「数えきれない」。なんだよそれ! でも数値化されないところに無限の魅力が広がる。たぶん、チョコレートを渡した人たちもまた、あの不思議な色っぽさに強く惹き付けられ、彼のことで頭がいっぱいになった結果、深澤の元に「数えきれない」チョコレートが集まったのではないか…と、勝手に想像する。 『わたしの宝物』の美羽と冬月は中学生時代の友人(先輩後輩)である。図書館や団地の給水塔近くのベンチで多くの時間を共有した。20年以上会っていないのに、図書館でのふいの再会によって美羽の心は冬月でみたされる。再会と同時に心は完全に不倫している。 冬月にはそれだけの魅力があるというキャラ設定だが、(渡辺翔太同様に)一瞬で相手を深く、強く、激しく自分色に染めてしまえる深澤が演じることで、冬月役の求心力は担保される。深澤のこれまでの役者としての歩みを鑑みても、決定的な役柄と出会ってしまったといえるのではないだろうか。
第3話以降不安定な様子を見せる冬月の今後から目が離せない
ところが、第2話での不在を経た第3話で出張先のアフリカで難を逃れ、帰国した冬月を演じる深澤は、なんだか画面内に定着せず、不安定な状態であるかに見える。 命からがらだった冬月はほんとうに帰国したのか。彼が日本に存在する事実がどうも疑わしくなる。その不安定さ。第1話冒頭で、カメラの前進移動によって表現されていた声以上に、その不安的な存在が色っぽく感じられるから不思議だ。 歩道橋にたたずむ冬月は、出国前に同じ場所で美羽と交わした会話を回想する。横並びで、冬月はやや上あたりを見上げていた。背景には青空。回想場面ですでに深澤は、役を演じる演技(物語)レベルでは画面にしっとり定着しているのに、でもどこかその存在がフレーム内には定着せずに、画面上からせりあがっているように見える。 このシーンにおける深澤の魅力は、第1話で酢昆布を取り出した場面でのピンボケ演出に関係するのかもしれない。あるいは、第5話で美羽に子どもを抱かせてもらえなかったあとの歩道橋場面を思い出してもいい。 背景は曇り空。冬月がひとり、視線を下げる。画面左側に深沢の横顔、右側には曇り空がいっぱいに広がっている。注目すべきは、深沢の視線の先に細長い通路のような空間が見出せるという点だ。画面の上手側と下手側で被写体が占める、単純な構図の問題では片づけられない。 『わたしの宝物』の深澤辰哉は、定着と不安定のすれすれのところで画面上に存在しながら、声の通路と視線の通路を可視化する。この直線的なふたつの通路は、ドラマ後半へかけて徐々にクロスするとき、深澤辰哉の不思議な色気と魅力がどこからきているのか、その秘密が明らかになる気がする。 【著者プロフィール:加賀谷健】 コラムニスト・音楽企画プロデューサー・クラシック音楽監修 クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで、企画・プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメン研究」をテーマに、“イケメン・サーチャー”として、コラムを執筆。 女子SPA!「私的イケメン俳優を求めて」連載、リアルサウンド等に寄稿の他、CMやイベント、映画のクラシック音楽監修、解説番組出演、映像制作、テレビドラマ脚本のプロットライターなど。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
加賀谷健