マイナンバーカードを用いた公的個人認証(JPKI)の活用事例
地方公共団体による公的個人認証(JPKI)の活用 政府は、人口減少・少子高齢化や地域産業などの空洞化といった課題解決に当たり、デジタル技術によって地域課題の解決と地域の魅力向上を図るため、「デジタル田園都市国家構想」を推進している。これは、マイナンバーカードを活用し、地方公共団体において地域通貨や地域ポイントなどをアプリで管理する取り組みだ。これにより、マイナンバーカードを活用した取り組みがさまざまな地方公共団体で実施されているが、主な利用用途は以下の通りだ。 地域通貨アプリ利用時の本人確認 子育て給付金のウェブ申請時の本人確認 図書館システムやアプリ利用時の本人確認 オンデマンド乗合タクシーアプリ利用時の本人確認 健康管理アプリ利用時の本人確認 施設予約システム利用時の本人確認 電子申請システム利用時の本人確認 デジタル身分証発行時の本人確認 具体的な一例としては、福井県の全自治体が参加するデジタル地域通貨事業「ふくいはぴコイン(以下、はぴコイン」に利用されている「ふくアプリ」がある。ここでは2024年度中に、特定のウォレットアカウント作成時にマイナンバーカードの利用による公的個人認証を用いたオンラインで完結可能な、厳格な本人確認が県内のさまざまな事業で提供される予定だ。 福井県は、県内の経済や地域活動の活性化のために「はぴコイン」を活用するほか、出産・子育て応援の給付金に県内17市町全てが「はぴコイン」を採択しており、今後「はぴコイン」以外でも、公的個人認証を用いた厳格な本人確認を伴う事業も展開される見通しだ。 その他、地方公共団体におけるマイナンバーカードの活用事例をデジタル庁がその用途、自治体名とサービス内容を公表している(2024年4月10日時点)。
金融機関における公的個人認証(JPKI)の活用 銀行や証券会社などの金融機関では、特殊詐欺やマネーロンダリングなどの犯罪目的で口座が不正利用されるのを防ぐ必要がある。従来は本人確認書類を目視などで確認してきたが、偽造の手口が巧妙化してきているため、マイナンバーカードを活用した本人確認が実施されている。 大手都市銀行 ネット上の契約や口座開設時の本人確認手続きにおいて、スマートフォンを使用した免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類の券面撮影、もしくはICチップの読み取りを行い、容貌の画像(本人確認時に撮影された本人の顔画像)とともに送信することで、オンラインでの厳格な本人確認を実施。 オンライン証券 公的個人認証(JPKI)を組み込んだスマートフォン用証券口座開設アプリを導入することで、従来の本人確認書類などの郵送を不要にしたオンラインでの厳格な本人確認を実施。 外国為替証拠金取引業(FX:Foreign Exchange) 金融機関の口座開設時に実施が求められる顧客の本人確認業務について、オンラインによる本人確認として防止法に基づいた券面撮影方式を導入している。しかし、犯収法施行規則の「顧客等の本人特定事項の確認方法」に関する規定により、本人確認書類の厚み確認などが必要だが、さらなる顧客満足度の向上と業務効率化を目的にマイナンバーカードのICチップ読み取りによりオンライン完結のスピーディーで厳格な本人確認を実施。 金融機関においては、犯収法施行規則に定められた現時点での本人確認方式により本人確認を実施しているだろう。しかし、今後見直し案が正式に改正・施行されることになれば、その規則に応じた本人確認方式を実施しなければならない。 その他業種でもマイナンバーカードを活用した本人確認を実施している。MVNO※サービス提供事業者では、従来は携帯法で認められている運転免許証などの本人確認書類の画像データをアップロードし、それをチェックして本人確認を行っていたが、中には加工画像の不正な申し込みもあった。携帯電話の犯罪への悪用や未払いリスクを防ぐ必要があったため、自社開発アプリで公的個人認証(JPKI)が可能な仕組みを組み込み、厳格な本人確認を実施している活用事例がある。 ※MVNO:Mobile Virtual Network Operator。仮想移動体通信事業者という意味。移動体通信事業者から通信回線を借り受け、サービスを提供している事業者のこと。 最後に、デジタル庁が行っている取り組みについて触れたい。デジタル庁のウェブサイトには、マイナンバーカードの利用促進のため、活用事例やよくある質問への回答など、民間事業者向けのお役立ち情報「マイナンバーカード・インフォ」を公開しており、約60件(2024年11月8日時点)の活用事例が掲載されている。 2025年春には、マイナンバーカードをスマートフォンに搭載する「スマホ用電子証明書搭載サービス」(スマホJPKI)がiPhoneでも利用できるようになる予定だ。これにより、官民を問わずさまざまな分野でマイナンバーカードを活用した本人確認が推進されていくだろう。AI技術を含めたデジタル技術が急速に進化し、それらによって、デジタル社会が急速に進んでいる。本人確認の手法についてもさらに進化していくことが予想され、今後も最新情報をお届けしたい。 田上利博 サイバートラスト株式会社 フィールドマーケティング部 担当部長 20年以上にわたりセキュリティベンダーで営業、プロダクトマーケティングに携わり、サイバーセキュリティに関する講演などをはじめ、サイバーセキュリティやデジタル改革に関連する法制度をはじめ、DX推進に関する最新動向や解説記事を多数執筆しており、さまざまな業界団体で活動を行う。