元日本代表主将・井原の監督手腕は?
敵地でコンサドーレ札幌と対戦した第3節から、井原監督はそれまでの4バックを3バックに変更した。後半終了間際のミス絡みの失点で黒星こそ喫したものの、最後まで白熱の攻防を演じた戦いが第4節以降からの巻き返しにつながった。 濱田によれば、井原監督はチーム始動時から「相手のやり方やチーム状況に応じて4バックと3バックを使い分けると」と宣言していたという。 第2節まで左サイドバックを務めたU‐22日本代表候補の亀川諒史が負傷離脱したこともあるが、こうした柔軟な考え方は、レイソル時代にネルシーニョ監督から受けた薫陶も大きく影響している。 ネルシーニョ監督は対戦相手を徹底的に分析した上で、4バックと3バックを巧みに使い分けた。相手の長所を封じ込める戦い方を「非常に参考になった」と振り返る井原監督だが、アビスパでは自分たちの長所をより鮮明に打ち出すためにシステムを使い分けていく。 連勝を狙って敵地に乗り込んだ4月1日の横浜FC戦では、それまでの「3‐5‐2」を「3‐4‐3」に変えた。相手の重圧の前にツーシャドーと両ワイドが一列ずつ下がり、意図とは異なる「5‐4‐1」になる時間帯が多かったが、最終ラインの高さとコンパクトなブロックはキープ。攻めては2ゴールを奪うなど、前半をほぼ完璧な内容で終えた。 後半に入ると守りに入ったのか、セカンドボール争いで後手を踏む場面が目立った。最後はアディショナルタイムに与えた不用意なCKから、痛恨の失点を喫して引き分けた。 現役時代に経験した「ドーハの悲劇」を彷彿とさせる展開に「これもサッカー」と苦笑いしながら、井原監督は横浜FC相手に支払った授業料を今後の戦いに生かすと決意を新たにした。 言葉通りに中3日でショックを一掃させ、日本代表時代の盟友だった柱谷哲二監督が率いる水戸ホーリーホックをホームに迎えた5日の一戦では再び1対0の完封勝利をゲットしている。 「僕は可能性のあるチームだと思っているし、選手たちもひたむきに頑張っているので、何とか結果を出させてあげたい。僕自身、結果を残せないとやはり楽しくないので」 横浜市内の自宅に夫人と一男一女を残し、単身赴任で初めての監督業に挑んでいる。 「慣れるまではもうちょっとかかるかな。寂しいですけど、(監督業も)やりがいがあるので」 今シーズンの目標は5年ぶりのJ1復帰。終盤戦の追い上げで6位に食い込み、プレーオフを勝ち抜いたモンテディオ山形を励みにしながら、豊穣の秋を目指して47歳の新人監督の挑戦は続く。 (文責・藤江直人/スポーツライター)