日経平均大暴落「植田ショック」はなぜ起きたか…岸田政権への負い目、解散総選挙、そして「コミュ力不足」が大混乱を招いた
24年前の「デジャブ」
総裁周辺筋は「総裁は6月の記者会見でも、長期国債買い入れ減額と追加利上げの同時実施もあり得ると何度も述べている。市場も織り込んでいると考えていた」と説明するが、相場の混乱ぶりを見れば、コミュ力不足は否めない。 今後の焦点は米経済の動向だ。景気後退が現実味を帯びれば、日本経済にも波及し、株価や為替を再び揺るがしかねない。その場合、政策金利の水準が5.25~5.5%と高いFRBは大幅利下げで景気を下支えする余地があるが、わずか0.25%の日銀は緩和手段が乏しく、厳しい状況に直面する。 そんなリスクシナリオへの深謀遠慮からか、植田氏は少しずつでも利上げを進めて、米景気が変調した場合に備えた金融政策ののり代(緩和の余地)を確保したいと考えているようだ。一連の市場の混乱を受けて8月下旬に開かれた衆参両院の閉会中審査でも「市場の動向を注視する」としつつ、経済や物価が見通し通りに推移すれば「政策金利は(景気を熱しも冷ましもしない)中立的な水準になっていく」と、利上げ路線を堅持する考えを強調した。 周辺筋は「岸田文雄首相と同様に、周囲の空気を読まない鈍感力も植田総裁の持ち味。本人は7月利上げもその後の記者会見での発言も『適切だった』と今も確信している」と解説する。 ただ、日銀内には、24年前(2000年8月)のデジャブ(既視感)を警戒する空気も漂う。速水優総裁の強い意向でゼロ金利解除に踏み切ったが、その後、米ITバブルが崩壊し、2001年3月に量的緩和に追い込まれている。 当時、日銀審議委員だった植田氏はこの際の決定会合で「ゼロ金利解除は時期尚早」として反対票を投じた。因果は巡るということなのか、日銀の今回の追加利上げでは産業界や学者出身の審議委員2氏が「時期尚早」として反対。利上げを主導した植田総裁は、2000年当時の速水総裁の姿にも重なって見える。 さらに、最大の政治的な後ろ盾だった岸田首相は自民党総裁選への出馬断念に追い込まれ、まもなく権力の座を降りる。金融政策の正常化に賭ける植田日銀の意気込みとは裏腹に、取り巻く環境は厳しくなる一方だ。 米景気後退や人工知能(AI)・半導体バブル崩壊が現実になれば、異次元の金融緩和への逆戻りは必至な状況だけに、植田氏自身も心穏やかではいられないのが実のところだろう。
週刊現代(講談社・月曜・金曜発売)