東大名誉教授が教える「物価上昇」続く根本原因 よいインフレ・悪いインフレの決定的な違い
ただ、ディマンド・プル・インフレが起きればよいのかというとそうではありません。なぜなら、大切なのは「インフレの程度」だからです。 もし物価の上昇が激しすぎて、賃金の上昇がそれに追いつかない場合、消費者の購買力が低下します。例えば、日本を代表するテーマパーク「ディズニーランド」が入園料を値上げしたと仮定しましょう。 8000円から8500円の値上がりであれば、大きな負担は感じないでしょう。ところが、8000円から1万円に値上がり、その後も1万1000円、1万2000円へと値上がりが続いたらどうでしょうか。同時に私たちの給料も上がれば問題ありませんが、給料の上昇が追いつかなかったら、実質的に賃金の価値が下がります。
私たちの負担が増えたことになり、生活が苦しくなってしまいます。つまり、ディマンド・プル・インフレが起きても、賃金の引き上げがそれに追いつかなければ問題なのです。 生徒 よいインフレとは、ディマンド・プル・インフレが起きて、かつ賃金も同時にアップする現象ということですね。 はい、その通りです。よいインフレであれば、経済が活性化して、私たちも企業も豊かになっていき、国全体が経済的には理想の方向へと進みます。
■コスト・プッシュ・ インフレの原因とは? 次に「悪いインフレ」を見ていきましょう。2コスト・プッシュ・インフレは、モノを供給するとき、その原材料を仕入れる費用=コストが上昇することで起こるインフレです。 なぜこれが悪いインフレなのか。コスト・プッシュ・インフレは需要が供給を上回って発生している現象ではありません。そのため、モノがどんどん売れる状況ではなく、経済の活性化につながりません。あくまでモノを生産するためのコストが上がって、インフレ(物価上昇)が起きているだけなのです。
生徒 モノが売れている状況ではないのに、コストが上がったら大変な気がします。 はい。その通りです。例えば、普段通っているスーパーで、原材料の高騰などによってマヨネーズ1本当たりの値段が200円から、300円に値上げされました。消費者からすれば、食費の負担が増えたことになります。給料が上がらなければ、消費者の購買力は減少するでしょう。 一方で、企業にとってはコスト・プッシュ・インフレの背景となる原材料などのコストの上昇によって、収益が減少している状況です。販売価格を値上げして収益の改善を図ろうとしても、それだけでは企業の経営が苦しい状況に変わりありません。