JBC規則抵触も。なぜ井岡一翔は4階級制覇を狙い米国での復帰を決意したのか
現役復帰の背中を押す条件も揃っていた。 この日の会見では、これまで井岡戦を放映してきたTBSのアナウンサーが代表質問をした。回っていたカメラはTBSとNHK。WBA、IBF世界ライトフライ級の統一王者、田口良一(ワタナベ)がタイトルを失い、スター不在に苦慮していたTBSとしても井岡の復帰をバックアップする考え。大晦日では、特別の予算を組み、好カードを実現しなければならない局にとっても、数字の計算できる井岡の復帰は願ってもない話だろう。 加えて“モンスター”井上尚弥(大橋)がバンタム級へ転向したことで、スーパーフライは、群雄割拠の階級となった。「スーパーフライ3」のメインは、前対決での判定に物議を呼んだWBC王者シーサケット対エストラーダの再戦で、井上尚弥が返上したWBO同級王座の決定戦として同級1位のドニー・ニエテス(比)と2位のアストン・パリクテ(比)の世界戦も組まれている。WBA同級王者のカリッド・ヤファイ(英国)の参戦の可能性もあり、このクラスには復帰戦が流れたローマン・ゴンザレス(ニカラグア)も控えているが、プロモーターはさらにスーパーフライ級を盛り上げるために新たな人材を求めていた。元3階級王者井岡の参戦は、最高の新コンテンツとなる。日本人初の4階級制覇を狙う井岡の決意と、周囲の思惑が、見事に一致して、引退発表から、わずか7か月後の現役復帰となったわけである。 だが、現役復帰に向けてすべての条件がクリアされたわけではない。 やる、やらないは、ボクサーの自由意思だが、ライセンス制度の下で成立している競技ゆえ守らねばならないルールはある。前所属先の井岡ジムも米国での復帰を認め、応援エールを送るなど、すべての障害をクリアしているように思われるが、JBCに引退届を提出した選手が、海外でライセンスを取得して、再起する道は“抜け穴”で、JBCは認めていない。JBCと交流がある海外のローカルコミッションから照会があった場合は、引退選手であることを告げ、ライセンスを交付しないことを求める。 過去に所属ジムとのトラブルが発生した西島洋介山や、日本でのライセンスを更新できなかった亀田和毅、亀田興毅が、米国でライセンスを取得して試合を行ったケースはあるが、これらは、JBCルールを無視したもの。独占禁止法に抵触すると言われる日本のジム制度、選手の移籍問題は真剣に見直すべき問題ではあるが、現段階では、それは別問題で、新ルールが整備されるまで、引退した選手が、海外でフリーエージェントとしてファイトできるというような前例は作るべきではない。 この日、JBCの安河内事務局長は、「ルールとしては、所属ジムから国内ライセンスを再取得したうえで、海外遠征届けを出してもらい、こちらからアメリカのローカルコミッションにレターを送るという形でリングに上がることが望ましい。中には、ローカルコミッションが整備されていない国もあるが、アメリカなどでは、互いに資格について照会する関係にある。井岡は、実績のある元世界王者のトップボクサーであり、引退届を出した井岡ジムが、OKしているということなので大きな問題にはならないが、引退すれば海外でできるという前例になることはよろしくない。井岡選手サイドと、この案件について正式な話をしていないし、JBCとして許可したわけではない」という見解を示した。 現状ではJBCルールに抵触している。 この問題について井岡自身は「それは僕からというか、色々と動いていただいた方の下でやっているので、どういうことになっているかはわからない」とコメントした。JBCへの再ライセンス申請という手順を踏んで復帰すべきだろう。