わずか4秒で人生が一変 後を絶たない高齢者の「踏み間違い」、19歳の2人が死傷した福島県の事故
遺族らの深い悲しみと無念…「叶えるなら返してほしい」
4月末に、事故の裁判が始まった。72歳の女性はうつむいた状態で入廷し、手が震え、涙目となっていた。男子学生の父親の陳述書を検察官が読み上げた。 「息子は子どもの頃にはサッカー、小学校から大学までバスケットボールを続け、健康体であった。妻がコロナになった時も、食事を作るなど家族思いの子だった。息子はまだ19歳で、今後も長く続いた未来があったはずだし、私たちもずっとそれを見ていたかった。息子がもう戻ってこないのは悲しい。相手の方には重く受け止めて欲しいし、厳重な処罰を受けて、責任を取って欲しい」。 大けがをし、大切な交際相手を失った女子大生の陳述書も読み上げられた。 「(3月は男子学生の)誕生日で、旅行に行く約束もしていた。本当に悔しいし、願いを一つ叶えてもらえるならば…返して欲しい」。 72歳の女性は胸の前で両手を握りしめ、体が激しく震え、涙がこぼれ落ちた。裁判官から「大丈夫ですか」と気遣いされる場面もあった。
踏み間違いの原因「分からない」
そして、裁判では、なぜ女性が踏み間違いを起こしたのかが大きな焦点だった。急いでいた、あるいは車の運転が不慣れだったなど、様々な理由が考えられたが、女性はこう答えた。 「いくら考えてもなぜそうなったのか分からない。(踏み間違いを)ニュースで見たことはあるが、まさか自分の身で起きるとは思っていなかった。間違えてはいけないことは常に頭にあった」。 女性に事故・違反歴はなかった。そして、女性は免許を返納し、所有していた2台の車を処分したことを明かし、二度と運転しないことを誓った。さらに、「許されないことだけど、もしお会いできるなら、直接お詫び申し上げたい」と述べた。これに対し、検察側は「遺族らは会いたくないと言っている、事故を思い出したくないから出廷もしなかった」と伝えると、「自分なら許せないと思う、一生向き合っていきます」と、涙を流しながら答えた。
高齢者に多い踏み間違い・・・パニック時の「思い込み」が暴走につながるケースも
「ブレーキ操作不適が後期高齢者、特に75歳以上をもって多くなる傾向がみられます」。 こう話すのは、交通事故の原因や対策を研究する福山大学の関根康史准教授。その理由について、認知能力と身体的な能力の低下が関連していると指摘する。さらに…。 「太ももをあげて、アクセルからブレーキへ操作を切り替える習慣を持っている人は、パニックになった時に一旦足をあげれば、次はブレーキを踏めるという思い込みがある」。 普段から足を上げてペダル操作している場合、なんらかの拍子でパニックになると、足をあげれば「ブレーキが踏める」と思い込んでしまい、結果としてアクセルを強く踏み、暴走につながるという。 昨年度の踏み間違いによる事故は3110件、38人が死亡、4343人が重軽傷を負った(交通事故総合分析センター調べ)。2018年から3年間の統計だと、事故を起こしたドライバーの7割以上が65歳以上の高齢者だった。警察などは高齢者に免許返納を呼びかけているが、公共交通機関が十分に整備されていない地方では、日常の買い物や通院などで車を使う高齢者も多く、思うように進んでいない。