このテーマに向き合うのに「47年必要だった」 映画監督・三島有紀子が描く【人間の中に巣食う罪の意識】
タイトルに込めた意味
――『一月の声に歓びを刻め』のタイトルにある“歓びを刻め”との前向きな言葉に力強さを感じます。どうしてこのタイトルに決めたのでしょうか。 三島:撮影している最中に、これは“声”の映画だなと感じるようになりました。この物語は1月から始まりますが、1月には何か特別にしようとした人間の文化を感じます。新しい1年、新しい何かがスタートする月。そう思ったときに、まず「一月の声」というフレーズが浮かびました。 次に「一月の声」がどうなればいいと願いながら自分は作っているのだろうと考えて、1月に聞こえる声、発せられる声がたとえ辛いものであったとしても誰かを想うことに歓びを刻んでもらえたら… “歓びを刻め”ということだなと。それでこの非常に長いタイトルになりました(苦笑)。 “声”しかり、本作は3篇をつなぐ水の存在も印象的です。特にカルーセル麻紀さん演じるマキの湖での叫びのすさまじさと存在感は、まばたきができないほどでした。 三島:あの場面でのワンカット演技は、基本的にカルーセルさんにお任せしましたが、私自身の水への捉え方が特に大きく変わった瞬間でした。今までにも私は水のカットを結構撮ってきましたが、生と死は常に背中合わせだとの思いで撮っていました。水は黄泉(よみ)の国への入り口であり、死への入り口だと。 でも今回の作品で、その捉え方が大きく変わりました。島と島を結ぶものが海であり、船が走れば通い合うこともできる。水は誰かとつながるものなんだと。中でも変化を感じたのが、カルーセルさんが湖に手を入れたときでした。あの手の先には誰かがいて、たとえば娘のれいこ、大阪のれいこ、八丈島の誠、いろんな人につながっているかもしれないと感じました。 私はこの作品で、物理的には聞こえない声が、共鳴し合っている者同士には聞こえていることだってあるかもしれないと信じて撮っていたので、カルーセルさんが湖に手を入れてくれた瞬間に、“誰かとつながるもの”と水の存在がすごく合致したんです。