人気作家自ら出演する「文士劇」、66年ぶり大阪で1日限りの公演…直木賞作家4人の「実行委」主催で今月
人気作家による「文士劇」の公演が11月、66年ぶりに大阪で行われる。資金集めから事務作業まで、作家自ら奔走する異例のプロジェクト。1日限りの公演で、約800席のチケットは即完売した。本番に向けて稽古はヤマ場を迎えている。なぜ作家がここまで芝居に情熱を傾けるのか。 【写真】体育祭の場面ではダンスも盛り込まれる(大阪市北区で)
大阪在住の黒川博行さんと朝井まかてさん、京都在住の澤田瞳子さん、福岡在住の東山彰良さんの直木賞作家4人が結成した実行委員会の主催。演目は「放課後」で、原作は東野圭吾さんのデビュー作である同名の青春ミステリー小説だ。京都を中心に活躍する劇団THE ROB CARLTON主宰の村角太洋さんが、脚本・演出を担当する。
6月に行われた衣装合わせでは、出演者18人がセーラー服や学生服、体操服に身を包み、ポスター撮影に臨んだ。17歳の少女の心情を描いた『光抱く友よ』で1984年に芥川賞を受けた高樹のぶ子さんは「あれから40年。作家だもの、歳月はいつでも飛び越えられる」と余裕の笑顔だった。
8月の「読み合わせ」では、一穂ミチさんの第171回直木賞受賞を、花束と拍手で祝う場面も。9月からは「立ち稽古」が始まった。主人公の男性教諭役の東山さんはすでにセリフが入っていて、他の出演者と盛んに演技プランを話し合っていた。「今は文士劇に注力している」と語った。
朝井さんは「ふだんは書斎で独り書き続ける仕事なので。同業の士と語り合い、一つの舞台を仕上げていく過程そのものがうれしい」と話す。「真剣に、楽しむ。それが多人数による創作行為の 醍醐(だいご)味だと思う」
始まりは3年前、朝井さんと澤田さんが、先輩作家である葉室麟さん(2017年に死去)の墓参で九州を訪ねた際だった。福岡在住の高樹さんと東山さんが合流した食事会で「文士劇やりたいな」と意気投合した。
昨年、黒川さんが加わって一気に準備が加速した。演目を決め、仲間を募り、劇場を押さえた。資金を補うためのクラウドファンディング(終了)には、湊かなえさんらの「新作小説に自分の名前が使われる権利」といったユニークな返礼も用意した。目標額を大幅に超える500万円以上が寄せられた。