人気作家自ら出演する「文士劇」、66年ぶり大阪で1日限りの公演…直木賞作家4人の「実行委」主催で今月
チケットは完売し、「公演回数を増やしてほしい」との声が多いという。朝井さんらは「今回限りで終わらせたくない。数年に1度でもいい、継続することで文士劇を関西文化として根付かせたい」と願う。
大手出版社が集中し、在住作家も人口も多い首都圏以外では、文学賞の授賞式や文芸イベントはそう多くない。地方のファンにとって、文士劇は作家の素顔や肉声に触れられる、またとない機会だ。ここで生まれた人の輪、観客からの大きな拍手は、新たな創作の糧ともなるだろう。
文士劇は明治から昭和にかけて人気を博した。文士劇に関するエッセーなどをまとめた『芝居を愛した作家たち 文士劇の百二十年』(道又力編著、文芸春秋)によると、サポートする出版社側の事情、収支や裏方の大変さが、続かなくなった背景にあるようだ。
関西の作家たちが今公演のように苦労をいとわず、知恵と情熱で困難を乗り越えていくのなら、きっと西から風が吹くに違いない。 公演は11月16日、サンケイホールブリーゼ(大阪市北区)で。
始まりは明治時代、尾崎紅葉らが上演
文士劇は、明治時代に尾崎紅葉らが始めたとされる。菊池寛の提案で1934年に始まった「文春文士劇」は読者サービスとして催され、78年まで続いた。映像が残る58年の公演では、三島由紀夫や石原慎太郎らが歌舞伎を熱演している。
江戸川乱歩をはじめ推理作家らも、戦後、探偵劇をさかんに上演した。日本推理作家協会は創立50周年を記念して97年、東京でミステリー作家総出演の文士劇「ぼくらの愛した二十面相」を催した。
全国で唯一、継続しているのが盛岡文士劇だ。戦後に始まり、中断を経て、95年に地元在住の高橋克彦さんらの呼びかけで復活した。日本文芸家協会(林真理子理事長)も現在、2026年の創立100周年事業の一環として文士劇の準備を進めている。
大阪では1951年、大阪・三越劇場で関西在住の画家と文人による「風流座」第1回公演が行われた。関西大の増田周子教授の研究によると、日本画家・上村 松篁(しょうこう)や洋画家・小磯良平、詩人・竹中郁らが参加し、歌舞伎や時代劇の名場面と現代劇が上演された。第6回(58年)まで続いたという。
読売新聞