家の中心は、天井高が4mを超えるダイニング・キッチン 下町、墨田区の住宅街でも明るくプライベートが確保できた建築家のアイディアとは?
建築家を選んだきっかけは吉本ばななの小説『TUGUMI』だった!
雑誌『エンジン』の大人気連載企画「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」。今回は、東京・墨田区の住宅街に溶け込むような、外壁が赤褐色の3階建ての家。そこには幼い子供2人と愛犬と共に、下町ならではの生活を満喫する夫婦の姿があった。デザイン・プロデューサーのジョースズキ氏がリポートする。 【写真19枚】天井高4メートル超のダイニング・キッチンの空間は必見 隣家と密接するとは思えない明るさの秘密は写真で! ◆家の中心はダイニング・キッチン 東京スカイツリーにほど近い下町、墨田区の住宅街に、コンサルタント業を営むHさん(37歳)一家のモダンな家は建っている。家の中心は、天井高が4mを超えるダイニング・キッチン。ハイサイドライト(天窓)から入る光で室内は明るく、隣家が迫る立地とは思えない余裕のある空間だ。完成して1年になるこの家で、Hさん夫妻はもうすぐ4歳になる長男と、今夏に生まれた次男、そして愛犬チャーリーと暮らしている。 それまでHさん夫妻が住んでいたのは、都心の真ん中の高層マンション。愛犬と小さな子供と暮らすには規則が厳しいうえ、マンションを出てから駐車場まで7分もある。今後子供が増えた時のことも考え、不便なマンションを手放して家を建てることにした。 東京の足立区で育ったHさん。普段から近隣住民との触れ合いがある町での暮らしを望み、下町を中心に土地を探し始める。そうして見つけたのが今の場所だ。秋になると毎月のようにお祭りがある、昭和を感じさせるエリアで、同じ通りには昔ながらの、間口2間の家が何軒か並んで建っている。敷地はそうした家2つ分の、80平方メートル弱の土地。元の地主も、購入を希望していた業者ではなく、顔が見えるHさんを選んだ。 ◆吉本ばななの小説で 設計は、ネットでみつけた建築家、都留理子さんにお願いする。住まいに対する考えを、奥様が好きな吉本ばななの小説『TUGUMI』の一節から引用していて共感したのだ。都留さんとの家作りで印象的だったのが、具体的な家への要望だけでなく、感銘を受けた書籍や映画、旅などについて質問されたこと。その答えから、施主が生活で大切にしていることを探っていくのである。Hさん夫妻は極めて食に関心が高いので、キッチンを中心とした家を作ることに。また、お風呂が大好きなのと、奥様がオープンエアーなタイで生活したことなどから、解放感のあるバスルームを設けることにした。 こうして完成したのが、赤褐色の外壁の、変形六角形の3階建ての家だ。壁の色は、付近の建物や窓から見える電車の色と共通するもの。白い壁と違い、街に溶け込んでいる。建物の六つの角のうち、5個は直角より大きい鈍角。そうすることで隣家の窓と正対することが無いうえ、生まれた隙間の空間から隣家にも光を届けることができるのだ。 間取りも個性的で、まず1階の玄関扉を開けると、ちょっとした広さの土間に迎えられる。マンションにはなかったベビーカーや自転車を置くスペースであり、外から帰った子供が手を洗う場所でもある。1階奥の個室は、週のうち何日かは自宅で働くHさんのオフィス。1階から2階に上る階段は、片側の壁面全てが本棚になっている。 2階にあるのは、この家の中心である、吹き抜けのダイニング・キッチン。炊飯器やレンジなどが収まったカウンターテーブルが置かれ、ハイスツールに掛けて食事ができるようになっている。夜はこのカウンターで、夫婦でワインを楽しむことが多い。このダイニング・キッチンを取り囲むように居室が設けられている。3階も、ロフトを備えた天井の高いワンルームで、2、3階ともに、空間を仕切る扉はない。吹き抜けのキッチンの上は、眺めの良い屋上テラス。テラスに接した浴室からはスカイツリーが見える。 子供と出かけることの多いHさん一家にとって、クルマは必需品だ。マンション時代は遠くて不便だった駐車場を、今回は敷地内に確保した。引っ越し当初に乗っていたのは、愛着のあるスバル・フォレスター。ところが下町は道幅も狭く運転しづらいこともあり、今年になって乗り換えた。 新車の選定基準は、サイズとスライド・ドアの存在、2脚分のチャイルドシートの装着のしやすさ、そして何より運転の乗り味である。外国車を含め何台か試乗した末に選んだのは、ホンダ・ステップワゴン(2024年製)。子供を乗せて、片道30分ほどのHさんの実家を、頻繁に訪れている。また、何日か続けて休みが取れる時は、クルマで家族旅行に出かけるのが、自宅で働くことの多いHさんの楽しみのひとつだ。 ◆下町に建てた理由 そんなHさん一家は、普段は住人の息遣いが感じられる下町の生活を満喫している。「歩いて一分の魚屋は、スーパーと鮮度が違います。安くて美味しい惣菜屋も多く、子育てをしている身には助かる」と奥様。こだわった風呂を作ったが、Hさんは長男を連れて近くの銭湯に「最初の頃は週五回ほど、今でも最低週二回」は出かけている。近所のお年寄りたちが、長男を可愛がってくれるのだ。長男は街の人気者で、道で遊んでいても、色々な人から声を掛けられる。そんな地元の人たちの優しさに触れていると、仕事のストレスも忘れてしまうとHさんは話す。今でも東京に、こんな懐かしい世界が残っているのだ。下町に暮らす良さを教えてくれるH邸であった。 文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章 ■建築家:都留理子(つるりこ) 1971年福岡県生まれ。九州大学工学部建築学科を卒業後、青木淳氏の事務所勤務を経て独立。自身の名前を冠した事務所を主催し、住宅を中心に多くの建築を手掛ける。写真は、初期の代表作である川崎市に建つ自邸で、多くのメデァで紹介された。都留さんの建築に興味を持つ人を対象に、定期的に内覧会も行っている。主婦でもあり、2児の子供の母親でもある。母親になってから、家族や子供たちにとって「家」が心の拠り所になるよう、強く意識するようになった。 ■最高にお洒落なルームツアー「東京上手」がYouTubeチャンネルで楽しめる! 雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」がご覧いただけます。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなルームツアーは必見の価値あり。ぜひチャンネル登録を! (ENGINE2025年1月号)
ENGINE編集部
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