あの運命の最終回に何があったのか…WBO世界バンタム級王者の武居由樹と比嘉大吾の名勝負の裏を追跡…元K-1王者は那須川天心戦を熱望し比嘉は引退を示唆した
サウスポーの武居が自分の距離で戦えるのか。それともその壁を突破して比嘉が打撃戦に持ち込めるのか。八重樫トレーナーには誤算があったという。 「前へ出て来るときに左フックで入ってくるとは思っていなかった。過去の映像から右ストレートを使って入ってくるパターンを想定していた。そこに右ストレート、左フック、右アッパーを使って迎え撃つ予定が、右では入ってこず左フックばかりで入ってきた」 試合前から両陣営は心理戦を展開させていた。野木トレ―ナーはあえて「比嘉は頭を下げて入る」とクセをばらし、その話を機会のある度に繰り返した。八重樫トレーナーは「クセはそこだけじゃない。すべてわかっている」と返した。 1ラウンドは、互いにけん制し合ったが、比嘉が、終盤にいきなり左フックを放ち、浅かったが、その一撃をジャッジの2人が評価した。 比嘉は空振りしてもお構いなしに、ガンガンと左フックを振り回してきた。武居は、それをステップバックして外してから右アッパーを打ち込んでいく。入り際に右アッパーから左フックのコンビもヒット。比嘉は簡単に内側に入れなくなる。だが、4ラウンドにはガードを固めて強引に突っ込み、武居にロープを背負わせて左右のフックをラッシュ。5ラウンドから武居はステップを使いペースを奪い返しにいく。中盤のラウンドのポイントは武居が取った。6ラウンドには比嘉が右目の下をカットしている。 だが、比嘉は武居の厄介な右のアッパーに左フックを合わせ、7ラウンドから左ジャブを使い始めた。野木トレーナーが「大吾のジャブは伸びる」としていた左ジャブが、武居の作っていた壁を突破し始めた。八重樫トレーナーは「右アッパーに左フックを合わせてきたのも嫌だった。最後まで対処できなかった。さすが野木トレーナー。勉強になった」という。 9、10は比嘉のラウンド。武居をロープに詰めて左右フックを、これでもかと浴びせて、自分の時間帯を作った。武居が今度は左目上から血を流した。 だが、武居は体を変え、絶妙のクリンチで逃れ、致命的な一撃は打たせなかった。このケースを準備していたのかと思うほど巧みだったが、八重樫トレーナーは、こちらの見立てを否定した。 「そんな練習はしていない。リングの真ん中で戦うことを想定していた。ああいう詰められる時間帯を作らせてしまったのも想定外だった」 あげくの果てに11ラウンドにダウン。終盤にペースをつかんだ比嘉がポイントでリードしているとの見方もあったが、2人のジャッジはここまででイーブン。そして「最終ラウンドを取った方が勝ち」という死闘に武居が決着をつけたのである。 大橋会長は「ベルトをとったモロニー戦は最終ラウンドに倒されかけた。それが今回はまったく逆の展開。成長と運の強さを感じる」とV1戦に成功した元K-1王者を称えた。
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