鬼木体制8年目で2度目の無冠。ひとつのサイクルの終わりを感じるかのような悲しきルヴァンカップ敗退を川崎は越えていけるのか
準決勝で新潟に2試合合計1-6で敗戦
[ルヴァン杯・準決勝第2戦]川崎 0-2 新潟(2試合合計6-1で新潟が決勝に進出)/10月13日/Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu 【動画】川崎×新潟ハイライト 夕焼けに照らされた等々力のスタンドがどこか寂しげだった。 斜陽。 そんな言葉が頭に浮かぶ一戦であった。 ルヴァンカップ準決勝の第2戦で、ホームで新潟と対戦した川崎は0-2のスコアで力なく敗戦を突きつけられた。第1戦を1-4で終えていただけに、序盤から前に出たが、奏功せず。逆にカウンターから多くのピンチを迎える厳しい内容で、今季の無冠が決定した。試合後には珍しく一部から小さくないブーイングの声が聞こえてきたのも、新潟戦を象徴していたと言えるだろう。 周囲から見れば贅沢な話なのかもしれない。2017年に就任し、1年目で悲願のリーグ初制覇を成し遂げた鬼木達監督の下では、2022年に続いて2度目の無冠のシーズンだが、8年で2度のリーグ連覇を含めた7つのタイトルを手にしてきた、ここまでの成績が異常すぎたとも評せる。 もっとも、初の無冠だった2022年はリーグ戦で最後まで優勝を争っていただけに、タイトルに届かなかった意味は当時とは大きく異なる。 今季はまだ安泰ではないが、一時、降格が危ぶまれる状態まで落ち込み、9月からはシーズンを跨がるACLエリートを戦っているとはいえ、ルヴァンカップがタイトル獲得へのラストチャンスだった。その想いを表現する舞台だったはずだ。 しかし、アウェーでの第1戦は、キャプテンの脇坂泰斗が「今日はゴールを奪う、守る、ボールを自信を持って動かす、動かせない、そういうサッカーのベースのところで劣っていた」と振り返ったように拙いゲームで、その主将を体調不良で欠いた第2戦も、焦りからか、チームは最後までチグハグだった。 鬼木フロンターレは、タイトルへの想いを人一倍表現できるチームであった。現に鬼木体制で最も順位の低い8位でフィニッシュした昨季はシーズンの最後に意地の天皇杯制覇を成し遂げてみせた。他が真似できないような華麗なサッカーとともに、勝負どころでの力強さこそ真骨頂であった。 それが表わせなかった意味でも新潟戦のショックは大きい。それこそ個人的には、ひとつのサイクルが幕を閉じたような感覚にも襲われてしまった。 指揮官は試合後の会見で、「すべては自分の責任」との言葉を幾度か口にしていた。 一方で、クラブと長年苦楽を共にしてきた小林悠は「ファーストレグも気持ちの入るミーティングをしてくれましたし、それに応えられない僕ら選手のせいだと思う。監督は監督のせいだと言うかもしれないですが、選手としては選手のせいだと思います」と答える。 無冠に終わった理由は、ひとつに言及できず、様々な要素が重なり合った結果と言えるだろう。 昨季の天皇杯決勝のスタメンと、この日の新潟戦のスタメンを比較すれば、名前が重なるのはGKチョン・ソンリョンとMF家長昭博のみ。 海外挑戦に拍車がかかる日本サッカーの現状を象徴するように、川崎のタレントたちは次々に海を渡り、さらに昨季の天皇杯制覇の原動力になった山根視来、登里享平、山村和也という最終ラインを支えてきた選手たちも新たな挑戦を選択。コーチ陣も大きく入れ替わった。 そのなかで“勝ち方”の継承がかなり難しくなっていると言わざるを得ない。 鬼木監督は2017年のリーグ初制覇をした瞬間からチームに何度も呼びかけてきた。 「この空気、経験を絶対に忘れないでくれ」 それは勝った者にしか分からない経験を、チームとして積み重ねていきたいとの想いがあったからだ。 しかし、前述したとおり、活躍すれば海外に引き抜かれる循環が進み、国内移籍も増えた現状では、鬼木監督の想いは、徐々に実現が難しい願いになりつつあるのかもしれない。 それが何よりも悲しい。 小林も新潟戦後に想いを確認するかのように語っていた。 「一人ひとりが成長していくしかないと思う。タイトルが取れなかったことで、また一回取るのがすごく難しくなるし、だからこそ、このルヴァンカップはすごく大事だったと思うが、やっていくしかない」 何度、厳しい敗戦を突きつけられても、川崎は立ち上がってきた。今季も若い芽は確かに育っている。彼らが来季、海を渡ってしまえば、また振り出しに戻ってしまう恐れもあるが、そこをどうコントロールするかが、今こそクラブとしての腕の見せどころである。 ひとつのサイクルが終わってしまった感覚があると書いたが、新たな黄金期はクラブ一丸となれば必ず作れる。個人的には長期政権が珍しいJリーグで鬼木監督の下でさらなる進化を見てみたい想いもある。ただ、どんな形にしても、大事なのはクラブが覚悟と志を示せるかだ。 志のあるところに人が集まり、想いは積み重なる。クラブ作りにはそれが何より大切だと改めて考えさせられる新潟戦でもあった。 取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)