ウクライナ兵の素顔は"一児の母"...戦時下で見た「人々の穏やかな日常」
笑いのある戦場の日常
戦場の中に、日本の僕たちの暮らしと変わらない衣食住があること。これが、僕が戦場や世界の政情が不安定な地域に足を踏み入れるようになって一番驚いたことです。 たとえば、戦時下では結婚や出産をする若者が増えます。危機の中では一人でいるのではなく、家族をつくり、守り、万が一のときにも支え合っていこうと思うのが人間の本能なのかもしれません。 さらには戦争をジョークのネタにしたような商品が、マーケットに並ぶことがあります。ウクライナの取材で見たのは、プーチン大統領の顔の上に大きくバツ印が書かれている柄がプリントされているトイレットペーパー。 ロシア軍の猛攻に数週間耐え抜き、ウクライナ軍の抵抗の象徴となったウクライナ南東部マリウポリの製鉄所「アゾフスターリ」。そこで兵士たちが武器を掲げて、ロシア軍に対して放送禁止用語を発しているような絵がプリントされたTシャツ。 ウクライナのゼレンスキー大統領は元コメディアンです。ゼレンスキー大統領ならこの戦争に関連づけてどんなジョークやギャグを言うのか、みんなで大喜利のように出し合って、Tシャツの柄にしている。 ウクライナの人たちはジョークが大好きで、笑わせたり、笑ったりする力を持っている。自分たちの国で今、戦争が起きているのに、なぜこんなふうに面白がれるのだろう、リラックスして笑えるのだろうと不思議に思うような光景を、たびたび目にしました。 悲惨な戦地の姿がある一方で、僕たちと変わらない日常が存在している。これが戦場の本当の姿です。今進行している戦争となると、戦況や戦争の行方ばかりが報道されるのですが、そこに暮らす人々の柔らかな日常も、ぜひ知ってほしいと思います。
渡部陽一(戦場カメラマン)