半導体分野のハイレベル人材育成へ! タイ政府が支援
各国政府が半導体産業の育成を目指し、支援策を強化している。安全保障やBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の観点から新工場を建設する動きのほか、設計・開発に関わるR&Dセンターの開設や人材育成など支援策はさまざまだ。そうした支援策を通じて半導体の産業集積を図り、それぞれの国や地域が特色を持ちながら成長を続けている。ASEAN地域でもこうした動きは活発化している。 タイ政府は2029年までの電子・半導体分野の進出申請で、合計5000億バーツ(約2兆2000億円)の投資案件を承認した。外国企業の参入に対応できるよう熟練工を新たに8万6000人養成する。 「半導体ボード」を設置し、半導体分野への投資を促進 ペートンターン・シナワット首相は先ごろ、「国家半導体・先端電子技術政策委員会」(半導体ボード)を設置して電子や半導体分野の投資を促した。 タイ政府の方針に呼応して国の投資促進を図るタイ投資委員会(BOI)は、半導体、電子、自動車などの外国からの技術導入や労働力開発が将来的な成長には不可欠として、大型投資に対応できる体制づくりに本格的に取り組むことになった。 このほど会見したBOIのナリット・テートサティーラサック長官によると、電子・半導体産業の誘致を活発化するために、初めに世界の有力コンサルティング企業と協業を進め、電子・半導体産業の戦略を細かく分析していく。すでにいくつかの有力投資予定企業との話し合いを進めているという。 熟練工への教育を通じて、ハイレベル人材を魅力に 戦略には熟練労働力の開発も含まれており、トレーニング、スキルアップ、再教育などで8万6000人を養成する。この労働力にはマスターコースや博士課程レベルの研究者1400人の養成が含まれる。 ナリット長官によると、新設の部署「半導体ボード」の目的は外国から国内への投資を呼び込むことにある。 半導体の設計・開発や製造においては、熟練工などのハイレベル人材は必須。人材育成により、ハイレベル人材を増やすことで投資メリットの拡充につなげる考えだ。BOIによると、今年1月から9月までの全産業の国内への投資額は前年同期比42%増の7225億バーツに達し、15年以降過去最高を記録したという。 投資額で多いのは家電、電子、データセンター(DC)の部類。9カ月間で291件の申請があり、金額にして1834億バーツ。プリント基板関連の投資も多いという。投資件数増加の理由は、タイがデジタルインフラやクリーンエネルギーに強く、政府がDCなどのサポートをしっかり行っているため、とナリット長官。デジタル分野への投資も増加基調にあり、9カ月間で107件の申請があり、金額で942億バーツ。自動車・自動車用部品は212件の678億バーツ、農業・食品加工は226件、530億バーツ。 国別投資額は1808億バーツのシンガポールがトップ、前年同期のほぼ2倍。2位の中国は18%増の1141億バーツ。香港からは682億バーツ、台湾は446億バーツ、355億バーツの日本などが主なタイへの投資国になっている。 メーカー別では中国のハイアールが家電で135億バーツの投資が目立つ。エアコン中心のスマート家電で工場進出する。台湾のインベンテックはノートパソコンを含めスマート家電製造に118億バーツの投資が決まっている。 AIの普及拡大を背景にDC投資が活発化 タイへはDCの進出も顕著。米アルファベットの子会社クオーツ・コンピューティングが328億バーツを投じ東部のチョンブリ県に大型DCを建設、GDS IDCサービスの子会社デジタルランド・サービスも同県にDCを建設予定、投資額は280億バーツ。 自動車分野では独コンチネンタルのタイヤ工場が134億バーツを投資して中部のラヨーン県で拡張、年間300万個増の780万個の生産体制を目指す。 人工知能(AI)や自動車の進化を支える半導体は、今後も需要は拡大していく。技術革新のスピードも速く、地域に根差したニーズへの対応も必要となる。こうした動きを背景に、ASEAN地域でも半導体産業に関わる投資は拡大すると見込まれる。
電波新聞社