【特集】シナリオライターが遊ぶ『Lobotomy Corporation』―恐怖に立ち向かい、未来を創れ。人類の可能性を切り拓くモンスター管理シミュレーション
さて、聖徳太子ばりのマルチタスクをこなしながら何十日も作業を続けていくと、この会社が抱えている大きな秘密に気づいていきます。
アンジェラの下にはセフィラというAIがおり、彼女たちはそれぞれにL社の各部門のリーダーを務めています。地獄のような職場にいながら、前向きにメモを取ったりする者、すべてを諦めて皮肉ばかり言っている者、すべてのアブノーマリティに対して強い敵意を抱いている者など、なかなか個性豊かな面々が揃っています。
そんな彼女たちと向き合うのも、管理人であるあなたの使命です。彼女たちの物語を知り、内に秘めたエゴやドラマと衝突することで光の種という大いなるシナリオが進行していきます。
アブノーマリティとは何なのか? どこから来るのか? なぜ彼らを相手にしなければいけないのか? そもそも何のためにこれだけ大量の電力を集めているのか……? それらの答えは、セフィラたちから課されるとんでもなく厳しい条件を攻略することで、少しずつ見えてきます(管理シムでボス戦があるなんてなかなか珍しいのではないでしょうか)。
彼らセフィラの名前やゲーム全体のマップは「セフィロトの樹」を想起させる形をしているうえ、アブノーマリティたちのランクもヘブライ語のアルファベットから来ているなど、全体的に外連味たっぷりなフレーバーをしています。
しかしながら、それらのフレーバーだけが悪目立ちすることはなく、使命を帯びた人間たちによる泥臭いお話が少しずつ展開されていきます。正直、最初は「新世紀エヴァンゲリオン」のパロディがやりたいのかな……? と思ってしまいましたが、本作はそんな程度で収まらない独自の世界を見せてくれます。
(倫理を置き去りにして)科学だけが発展した未来世界が舞台のペシミスティックなSFでありつつも、狭いコミュニティの絶望と再起を描くシンプルなヒューマンドラマが核に据えられていて、それらを聖書モチーフのかっこいいフレーズで綺麗にまとめあげた一作でした。
本作の「FACE THE FEAR, BUILD THE FUTURE」という副題は、とても簡潔にゲーム全体を表しています。暗闇を切り拓き、恐怖に立ち向かい、人間の可能性という光で世界を照らすというのは、たしかに電力会社のやるべきことなのだと……そんな納得感に包まれた一作でした。
Game*Spark 各務都心
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