あるファストフード店で「凡ミス」が続出…従業員の脳派や心拍数を計測してわかった"決定的な原因"
■マネージャーの叱責で心拍数が急上昇 図表3は、スタッフの心拍数と、ミスやエラーが発生するタイミングとの相関を示したものです。 「適度な緊張状態」は、いつも通りに業務を遂行できている状態で、この時、心拍数は高くても120bpm程度です。しかしその後、心拍数は130bpmまで一気に上昇し、極度の緊張状態が続きます。そして、ミスが連発しているのです。 このタイミングで、一体何が起こっていたのでしょうか。 録画映像を確認すると、心拍数が急上昇する直前に、マネージャーが大きな声で叱責しています。 「何やってんだ、速く!」 この言葉を聞いたスタッフが取り乱し、ミスを連発してしまったのでしょう。 マネージャーの言い方は、適切ではありません。主観的で、感情をぶつけるかのような叱責でした。 このように言われたら、「どうしよう」と焦るばかりです。 必要以上のプレッシャーがかかれば、気は動転し、心拍数は上がり、ミスやエラーが頻発するのは当然のことです。 マネージャーが叱責したのは、忙しくなってきたから生産性を上げようと思ってのことです。しかし、結果として逆効果になってしまったのです。 「部下がつまらないミスばかりする」と思っていても、その原因は、もしかしたら自分自身の指示の仕方、叱責にあるかもしれません。 もし、身に覚えがなければ、チーフなどあなたの部下が、さらにその部下を叱ったり、圧力をかけたりしているかもしれません。 ■上司が言うべきは「急いで」「速く」ではない 現場が慌ただしくなってきた時、上司がとるべき行動は、怒ったり叱ったりすることではなく、適切な指示を出すことです。 慌てていると、つい手短に「急いで」「速く」と言ってしまうかもしれません。しかしこれは、主観的で曖昧な表現です。 そうではなく、「これ、20秒でお願いできる?」「1個3秒のペースで用意して」と定量的かつ現実的な目安を伝えることで、過剰なプレッシャーを与えることなく、取るべき行動を具体的に相手にイメージしてもらいやすくなります。 過度の緊張によるミスの発生は、スキルや熟練度、経験値の問題ではありません。人体の構造として、心拍数が上がれば平常時の判断力を失ってしまう。それだけのことです。やる気やマインドの問題ではないことを理解し、自分は冷静に定量明確な指示を出せているか、緊急時や忙しい時に自身がどのように振る舞っているかを今一度省みてみるとよいでしょう。 ---------- 中谷 一郎(なかたに・いちろう) トリノ・ガーデン代表取締役 大学卒業後、ベンチャー・リンク社を経て2010年にトリノ・ガーデンを設立。サービス業を中心に、建設、小売、メーカーなど幅広い業界における大企業の収益・生産性改善を、「オペレーション分析」を通じて実現してきた。その手法は一般的な戦略コンサルタントのそれと異なり、徹底的に現場の様子を「可視化し計測し記録する」こと。近著に『オペレーション科学』(柴田書店)がある。 ----------
トリノ・ガーデン代表取締役 中谷 一郎